転校生の秘密!?1
疑惑の席替えで一悶着あったが、席は俺の隣で落ち着いた。
後は、何ら騒ぎは起こらずに放課後の今に至っている。
俺は、『世話』をしてやれ、と言われた手前、帰れずに自分の席に留まっているのだが、肝心の『世話』をする相手が帰れなくなっていた。
窓辺にもたれながら隣を見ると、空草から机を二つほど空けて数人の男女が囲んでいたり、教室の入り口には他のクラスの奴らがたまっていた。珍しいもの見たさで集まっているのだろうが、ここまで来ると不憫だ。
当の本人こと空草はこちらの気など気に掛けず、文庫本を無言で、ひたすらに繰っていた。
「・・・はぁ・・・」
ともすれば聞き取れないようなか細いため息が空草の口から漏れた。気に掛けていないのではなく、気に掛けないようにしていたのだろう。
すると、そんな空草と目が合った。別段、何かを言いたい目では無かったが、こうなった以上何もしないわけにはいかなくなった。
椅子から立ち上がると、鞄を肩に掛けて、全員に聞こえるように、
「紗季先生がお前を捜してたぜ」
それだけ言って、教室から出る。背後には付いて来る足音が一つ、等間隔に聞こえてきた。
「・・・礼は言わないわよ」
その言葉が誰に向けられているのかは明白だ。
「誰も礼が欲しかったわけじゃ無い。紗季に頼まれたからやっただけ」
適当に言っていると、昇降口に着いた。
「今日の世話はここまで、で良いんだよな?」
振り向き尋ねると、少女は無言でこちらを見つめていたが、
「良いんじゃないかしら」
そうか、と答えると靴を履き替えて正門に向かう。
・・・・・・、
「・・・何で付いてくるんだ?」
足を止めて振り返る。
そこには、同じく立ち止まった空草が立っている。
「帰ろうとしているのだけれど・・・」
「朝みたいな迎えはどうしたんだ?『お嬢様』」
「あなたは喧嘩を売っているのかしら?・・・私にだって歩いて帰りたくなる事はあるわよ」
威勢よく啖呵を切ったと思ったが、語尾は少し沈んでいた。
だが、気にすることでは無いだろう。転校初日で、多少気を張っていたのだろうから気分転換でもしたいのだろう。
「そうか、じゃあな」
自分から始めた話を自分で切り上げると、帰路につこうとする。
その足を止めたのは、俺の制服の裾を掴まえた空草だった。
「・・・何だよ」
呆れて振り返ると、何故か上目遣いで見上げる空草が居た。
一瞬息を呑むほど綺麗で、いっそ絵画と言われても信じてしまいそうな程だ。それでも平静を取り繕っていると、
「・・・道が分からないの」
そんな絵から、途方もなく矮小な願いが口にされた。たまらず、口元に笑いを浮かべてしまう。
その笑いを嘲笑と取ってしまったのか、一気に空草の顔が険しくなる。
「やっぱり何でもないわ。忘れて頂戴」
ここで彼女の言葉そのままに立ち去るのも良いのだが、並みの絵画より綺麗なものを見せてもらったのだから、それくらいの時間外勤務も許容しよう。
たった今追い抜いていった空草に問いかける。
「で、お前の家はどこなんだ?」
立ち止まり、怪訝そうに振り返る空草。それを黙殺して促す。
空草は鞄から何やら取り出すと、それを手渡してくる。受け取ると、それに目を落とす。地図のようだ。
その地図にはこの学校も範囲に入っていて、一角に赤ペンで印が付けられている。
「ここか・・・」
どの辺りかを確認しようと周囲の建物を調べる。すると、驚くべき事実が!?
「結構俺の家と近いな」
いや、まあそこまで驚かないな。確か、この家は長いこと空き家だった。ならそこにお嬢様が引っ越して来ても何ら不思議はない。
「ちょっと待ってろよ」
一つ、大事なことを忘れていたのを思い出した。
一度、校舎まで戻り、駐輪場へと向かう。そこから自分の自転車を取ろうとしていると、
「あっ、琉だ。どうしたの?こんな遅くに?」
声を掛けてきたのは、さっきまでの制服ではなく、部活用に着替えたのかナイロンのTシャツにハーフパンツの出で立ちに、学校用の鞄と部活用に分けているのであろう2つの鞄を肩から下げた明だった。
それにしても、そんなに遅い時間だろうか。ふと腕時計に目をやると、既に6時手前を差していた。
部活動に所属していない俺はいつもHR終了後には速攻で帰宅の路についている。それを基準にすれば十分遅い時間だ。
「まあちょっと用事があったからな・・・。お前は何でこんな時間に、こんな場所に居るんだ?」
明は俺と違い部活動ーーー確かハンドボール部だったかーーーに所属している。
当然、帰宅部の俺にとっては遅い時間でも、部活動生には早すぎる時間だ。
すると、明はうんざりしたように言う。
「ええと、今日は部顧問が早めに帰っちゃったから、そのまま解散したんだ。・・・そのおかげで琉に会えたから良いけど」
「何か用事でもあったか?あるなら帰る道すがらにでも聞くけど・・・っと家の方向逆か。じゃあ明日で・・・」
「大丈夫。全っ然大丈夫だよ。今日、そっちに用事あるし、本っ当に大丈夫だから一緒に歩こう」
その剣幕に圧されて、頷く事しか出来なかった。・・・空草も一緒の事を話していないが、まあ大丈夫だろう。
・・・そんなこんなで今に至っている訳で。
俺は両手に花の状況で帰路についている。
なんか、その『花たち』がイラッとしているのは気のせいではあるまい。
「なんで、んなに険悪な雰囲気なんだ?知り合って初日だろうに」
「・・・自分の胸に訊いてみると良いよ・・・」
「別に特別に何かがある訳では無いわよ」
絶対何か気に食わない事があるのは分かる。
自転車を押しながら頭を働かせるが、全く心当たりが無い。
「どっかで遊んでいくか」
「「・・・はぁ・・・?」」
「仲がよろしいようで何よりだよ」
シンクロした言葉を適当に茶化す。
「仲が悪くなるのは、認識や理解のずれが多いからな。その辺を深めればどうにかなるだろ」
割りと自信のある論だったのだが、二人の表情からは『こいつ何を言ってるんだ?的を外しすぎてるだろ』みたいになっていた。
「・・・まあ何でも良いだろ。時間は大丈夫か?」
「久しぶりに街の様子もしりたいし・・・」
「ボクも大丈夫、かな」
一瞬、間があったが二人とも賛成の様だ。
・・・何か目的がずれた気がする。




