俺の学校生活は極彩色!?4
自分の教室に戻ってみると、未だに喧騒は収まることを知らないようだ。一応次の授業はLHRで移動は無いし、担任が持つのでこれくらいは普通だろう。
「今日、転校生来るらしいぞ」
なるほど、それが喧騒の理由にもなっているのか。
遠くに話されている内容を聞きながら物思いにふける。
「しかも、それが美少女だって噂だからはしゃいでるよ。みんな」
おそらく空草の事なんだろう。歩いているだけでも目立つはずだ。
「まあ、僕はそういうのには興味無いけどね。僕の目に写るのは君だけだからね」
身の毛がよだつような台詞が聞こえた。高校生のくせに重すぎやしないだろうか。
「君のそういう無口なところも好きだよ」
そっと肩に手が置かれた。
「わっ・・・何だよ?」
殊更驚愕の色を滲ませて、心底げんなりした顔でその肩に置かれた手の持ち主、新野に向かって振り向かずに言う。肩の手を外すのも忘れない。
「君はつれないね。そういうところも良いね。恋愛は成就したら冷める、って言うしね」
ここまで来たらわかる通り、新野新は同姓愛者だ。ルックスは女子にモテるのに、男子にしか興味を示さないから女子も寄り付かなくなった。というか、誰も好き好んで近づかない。俺だって出来ることなら一生出会いたくなかった。
だが、現実はそう甘くはない。
俺は、人の性癖などどうでもいいのだが、その対象が自分に向けられると話も変わってくる。新野はクラス替え初日に俺に絡んできた。物理的に。
前々から新野の噂くらいは聞いていたのだが、それを我が身で体験すると本気でキツかった。
それからというもの、毎日毎日絡んでくる。その時の、一部の女子の熱視線と、他の大多数の憐れみの視線は半端ではない。一度、その一部の女子に
「どっちが『受け』どっちが『攻め』?」
なんて訊かれた時は死にたくなったりもした。
それから、今日までのらりくらりと逃げ続けている訳だ。・・・今まで逃げきれていないのだが。
「ねえ、琉。転校生の話知ってる?」
不意にこれまでの気味の悪い声ではなく、ちゃんとした女子の声が俺の名を呼ぶ。
しかし、机を挟んで正面に居たのはワイシャツに身を包んだ小柄なショートカットの人物だった。顔立ちは中性的で、見た目だけならスカートを履くかズボンを履くかで性別を変えられるが、生物学上は女性だ。彼女が男子の制服に身を包んでいるのは、別にそういう趣味ではなく、彼女いわく、『こっちの方が着やすいから』だそうだ。
そんな彼女の名前は明海明だ。
「どんな娘が来るのかな?僕は楽しみだな〜」
無邪気に笑うその表情は純真無垢なものだった。その表情に素直に嘆息してしまう。なぜ、俺の周りはこうも落差が激しいのだろう。自然と涙で視界が滲む気がした。
「あれ?どうかしたの?」
「あー・・・いや何でもない。何の話だったけか?」
「転校生の話だよ。琉はどんな娘だと思う?」
どんな娘、か。さて、あいつはどんな奴だろうか。
「金髪で碧眼の、お嬢様然とした、清楚系の奴だろうな」
思い浮かんだ印象を並べると、二人は唖然としていた。
「オーケー、君はそんな娘が好みなんだね」
「・・・いやに具体的だね・・・。琉のタイプなの?」
嬉々とした表情で納得する新と、どこか困惑気味な明。
何か間違った解釈をしてしまったようだ。どうしたものか・・・
「おーい、席着けー」
教室に入ってきて早々、そう促してきたのは紗季だった。皆、いそいそと自らの席に戻る。誤解を正す間もなく新と明も戻ってしまった。
それにしても、彼女は生徒指導の教師で、担任は受け持っていないはずなのに何の用だろうか。
「久楽先生は急用なので、私がこの時間は持つぞ」
そこで思い出す。さっき空草の世話を頼んだのは紗季だ。当然、他にも手を回さないといけない訳で、その一つが『これ』なのだろう。
「紗季先生ー。転校生が居るんじゃないですか?」
一人の男子生徒が手を挙げて勝手に質問するが、紗季は怒る気は無いらしく、
「はいはい。どっから流れたのかね、その話は、全く」
呆れたように言う紗季と目が合う。その目は、言外に「お前が広めたんじゃないだろうな?」と訊いていた。肩を竦めて自分でないことを示すと、紗季は興味を失ったのか、話を進める。
「お前たちの知っての通り、このクラスに転校生が来た。仲良くしてやれよ」
紗季が「入ってこい」と言うと、前のドアが開き空草が入ってきた。
途端に、教室の男子が一気にざわめく。これだけの美少女がいきなり入ってきたのだからしょうがない。
空草が紗季の隣に立つと、紗季がチョークを手渡す。
空草は黒板を向くと、自分の名前を書き始めた。その動作一つ一つが洗練されていて、有り体に言えば美しかった。
チョークが黒板を打つ音がしばし響き、そして止まる。
空草は少し横にずれると、こちらを向き直る。黒板には流麗な漢字で『空草天』の三文字が並んでいた。
「空草天です。よろしくお願いします」
鈴が響くように透き通った声が教室に漂う。
さっき二人で交わした時よりは丁寧だが、やはり簡潔だった。紗季もこれ以上は期待していないのかすぐに引き取る。
「彼女は最近まで海外に居た。ようは帰国子女だ。聞いての通り、日本語は大丈夫だから気軽に話し掛けてやれよ」
そう言うと、腕を組み何かを考える素振りを見せる。
「空草、君の席はあそこだ」
紗季の示した先は、案の定俺の隣だった。・・・のだが、俺の隣の席は既に埋まっている。
「そこの君は一つ後ろの空いてる席に移って」
問答無用で席替えを敢行する。もうちょっと穏便に済ませられないのか、この人。
教室内がまた、ざわめいた。それは当たり前だ。
空いている席があるのに、いちいち既存の席を変えてまで席を決めたのだ。それも、日本一普通(自称)な俺の隣だったのも一役かっているはずだ。ついでに言えば、男子の怨念の視線や、怨嗟の言葉が俺に向けられていた。




