逃走#2
「ナギ!」俺は後ろから付いてくるナギに声をかける。
「なに?」
「先に行ってエンジンかけておいてくれ」
車まで、およそ200メートル、俺はナギに車のキーを投げ渡した。
「OK」
ナギは空中でキーを掴み取ると、地面を砕くほどの勢いで蹴り上げた。 高校の頃に100メートルを12秒前半で駆け抜けたその俊足は、未だに健在だ。
「流石…インターハイ」
俺は息を切らせながら呟いた。懸命に蹴り足に力を込める。
やっとの思いで車にたどり着き、後部座席のドアを開けて、タナベさんと一緒におばあちゃんを押し込み、反対側のドアからタナベさんに乗ってもらった。
「エアコンつけといたよ」助手席のナギが呑気に言う
「どーも、ありがとう」
俺も急いで運転席に乗り込んでクラッチを踏み込み、シフトレバーをセカンドに叩き込む。 エンジンを高回転まで吹かし切り、サイドブレーキを下ろすと同時にクラッチを蹴り飛ばした。 焦りのあまり二速に入れたツケで、エンジンが一瞬グッと沈み込み、激しい焦げ臭さとともにタイヤが悲鳴を上げて白煙を吐く。軽自動車が強引に弾き出された。
「安全運転!」ナギが叫ぶ。
「無理に決まってるだろうが!」俺は真っすぐ前を向きながら叫んだ。
スピードを維持できる直線に入ったときに、片手でシートベルトを着ける。
エンジンの回転数が一気にレッドゾーン付近まで吹き上がっているのを見て。俺はすかさずクラッチを踏み込み、シフトレバーをセカンドからサードへ叩き込んだ。
ガツンというショックとともに、軽自動車がさらに加速していく。
ゴブリンと俺の運転するオンボロ軽自動車との距離が目測で約10メートル程開いた。
次の車検は確実に通らないだろう。
バックミラーを見ると両脇の茂みから、わらわらとゴブリンが飛び出し、車の後ろをものすごいスピードで追いかけていた。
「後ろ見てみ」俺はナギに声をかける。
「あちゃーあたしより速いんじゃない?」
ナギは前かがみになってサイドミラーを覗き、感心したような声を上げた。そして俺を見て、
「コウセイ、もっとスピード上げらんないの!?」
「無理言うな! これ以上上げたら崖から真っ逆さまだ!」




