拉致
事の発端は昨日、ある家族から飛び込みの依頼だった。
山奥に住む祖母が「先祖代々続いた土地を離れたくない」と市の退去勧告を拒み続けているという。
家族と行政が再三説得を行うも、効果は無く、家族はついにハンターギルドを頼ってきた。
うちが請け負うということは「力づくでなければ解決できない何か」簡単に言えば拉致ってほしいってことを意味している。
まさに最終手段だ。
現場一帯は、ゴブリンの数が増え現在立ち入り禁止となっている。山の入口にかかる国道には規制線が張られているため、親父が市役所と警察に連絡を入れ、一応の許可を取った後、緊急会議が開かれた。
会議の結果、俺とナギ、そして看護師のタナベさんの三名が現地へ派遣されることとなった。
翌日、装備を整えた俺たちは車を走らせ、国道の規制線を抜け、一人を残し全員が退去した廃村にたどり着いた。
あたりを見渡せば、瓦が崩れ、屋根が半分力尽きた様に沈んだ廃屋が点在している。
限界集落がゴブリンの増加と共に廃村となり、そこにあるもの全てが存在意義を失っていた。
俺は一軒の古びた古民家のチャイムを押してみる。
ピンポーン
「あ、チャイム鳴るんだ」
俺は電気が通っていることに驚く。
「当たり前でしょ、まだ人が住んでるんだから、まぁ、一人だけど」
ナギは呆れたように言う。
「こんにちはー、ハンターギルドです」
引き戸の奥に向かって声をかけるが返事が無い。
俺は少し考えた後、引き戸に手をかける。なんの抵抗もなく戸が開いた。
「すいません、土足で申し訳ないです、お邪魔します」
一応の挨拶をして、スニーカーのまま玄関を上がり中に入っていく。
リビングを抜け障子を開けると、そこには、老婆が仏壇に手を合わせていた。
「土足で何の用だ?」
老婆は俺たちをみて眉をひそめる。
「拉致だよぉー」俺が口を開く前にナギが答えた。
馬鹿なのだろうか、家族に連れ出してほしいと頼まれたが、穏便に済ませられたらそれに越したことは無いのだ。
「ついに強行手段に出おったか!」
老婆は語気を強めて俺たちを睨みつける。
「おばちゃん、皆さん心配してますよ」
俺は、優しく丁寧を心がけておばあちゃんに伝えた。
「私に家族などおらん!先祖代々守ってきたこの土地を離れるくらいならこの場で死ぬと決めているんだ」
老婆そう叫びながらは箪笥にしがみついた。頑としてここを離れる気は無いらしい。
「守ってきた土地ったって人が住んでなきゃなぁ」
ナギが呟く。
黙っててくれないか…
「あの、おばあちゃん、ここは危険なんです、ご家族が待ってますよ…」
老婆に説得を試みる俺に、ナギが声をかけた。
「コウセイ、これまでの経緯知ってるでしょ、最初っから交渉決裂なんだよ」
ナギはそう言いながら、鮮やかな動きで老婆を箪笥から引きはがしを床に組み伏せた。
「タナベさーんやるよー」
「は、はい」
タナベさんはリュックから自動注射器を取り出して、おばあちゃんの腕に押し当て、上にあるをスイッチを親指で押した。カシュという音と共に中の液体が勢いよく入っていく。
「離せー!」という老婆の声が次第に弱くなり、1分程で意識を失った。
タナベさんは押入れを開け、毛布を出しておばあちゃんに被せる。
ナギは素早く老婆を毛布でくるみ、リュックからロープを出して胸と足首に巻きつけ手際よく縛り上げた。
俺はリュックの開いたスペースに、仏壇に置かれた位牌を放り込み、他に持っていけそうな貴重品を探す。土地の権利書とかが見つかればここに戻れる可能性はゼロではなくなるだろう。
まぁ限りなくゼロに近いのだが。
戸棚の引き出しを開けている俺に、ナギが声をかける。
「コウセイ」
「なに?」
「来てる」
ナギは、家の外に視線を向けながら言った。
「どのくらい?」
「いっぱい」
「もうか!」
「もうよ」
想定より早い、俺は慌てて、リュックのファスナーを締め、タナベさんにリュックを託し、毛布でグルグル巻きになった老婆を担いで玄関を出て、車に向かって走り出した。




