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リチャードさんって誰だ……?
先程おじさんと話している時にも出て来た名前だが、外を移動中だったこともあって適当に話を合わせていた。
ただ、今は屋敷の中だし話を聞く余裕はあるだろう。
「……どうやら家のことは孫には何も話していないようですね」
ボクの質問に答える代わりに、祖父がおじいさんやおじさんを呆れたような目で見た。
「私がアレコレ話すようなことでもありませんから……」
「初日以降顔を合わせていなかったしな……」
二人は揃って決まりが悪そうな顔をしている。
祖父はひとつ溜め息を吐くと「リリアナが悪いな」と頷いた。
どうやら母が悪いらしい。
よくわからないが、多分そうなんだろう。
「リチャードは長男だ。君にとっては伯父にあたるな。この街の警備隊の中隊長を務めている」
その言葉に、ボクは「…………あぁ」と小さく手を打った。
そういえば最初の頃に、母が街道の状況について兄が何か言っていた……とか、そんな感じのことを言っていたような気はする。
その人がリチャードか。
「リチャードはこの屋敷で暮らしておる。夜には戻ってくるし、その時に済ませられるか。……今日はこのままこちらに滞在するのだろう?」
「その予定です。……お嬢様なら戻ろうと思えば戻れますが……どうされますか?」
「向こうは賑やかそうだしね。ボクも今日はこっちにお世話になります」
村の守りは飲酒していないジェイクたちがいるし、子供たちも村にはしっかり馴染んでいる。
一晩ボクがいないからって何か問題が起きることはないはずだ。
村は今晩はお祭り騒ぎになりそうだし、こっちでのんびり過ごさせてもらおう。
「ああ……そういえば、お嬢様。外の商人たちの件を……」
「あぁ、そうですね」
ちゃんと話しておかないと、急に訪問されても困るだろう。
「どうした?」
何のことだろうという顔をしている二人に、門前の商人たちの件を伝えようとしたんだが……。
「む?」
それよりも先に、ドンドンとドアをノックする音が部屋に響いた。
「噂をすればか……。リチャードだな? 入りなさい」
ノックの音だけで誰かわかるのか、おじいさんがドアの外に向かってそう言うと、「失礼します」と男が部屋に入って来た。
先程外で一緒に戦った騎士たちと似たような鎧を身に着けているが……マントや装飾などがちょっと豪華に見える。
彼がリチャードだとしたら、階級は先程の彼らよりもちょっと上なんだろうし、その差だろうか。
彼はまずボクをジッと見て「……彼女がアリスですね?」とおじいさんたちに確認を取る。
祖父もそうだが……母といいあまり愛想がいい親子ではなさそうだ。
まぁ……優男ってわけではないが、粗暴な雰囲気もしないし苦手なタイプではなさそうかな?
「そうだ。外の件か?」
「ええ。夜になるとこちらも来客が増えそうなので、その前に。アリス、先程の街の外の戦闘について話を聞かせてもらいたいのだが、別室で構わないか?」
リチャードは部屋の外を指した。
廊下にはドアが並んでいたし、この部屋以外にも話が出来るような部屋は何室もあるんだろう。
「別室……? ええ。ボクはそれで構いませんが……」
街目指して街道を歩いていたらオオカミと戦っていたから手伝った……それだけのことを、わざわざ別室で話すことなのかな?
どうしたものかとおじいさんたちに視線で訊ねると、二人は「構わん」と頷いた。
「……わかりました」
もしかしたら別室で話す方がお互いに都合がいいのかもしれない。
ボクが立ち上がると、おじさんが「お嬢様」と声をかけて来た。
「それでは後のことは自分が話しておきますので……」
「そうですね。お願いします」
おじいさんたちにも一言告げると、リチャードが待つドアの前へと歩いて行った。




