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「アリス」
「はい?」
おじいさんが手紙を読んでいる間、暇になったのか謎のおじさんが声をかけて来た。
「今日は武器を持たずに来たのか?」
どうやら、傭兵団の団長で護衛として来たはずのボクの武器が部屋のどこにもないことが気になったらしい。
「いえ、槍と剣を持って来たんですけど、屋敷に入る時に預けました」
屋敷に入った時に、使用人から「構わなければ……」と念のため程度で武器の提出を求められた。
別に断っても良さそうな雰囲気だったんだが、おじさんはともかくボクはこの屋敷は初めてだし、困るような事態も起きないだろうと、槍と小剣の両方を預けている。
ボクがそう言うと、謎のおじさんは「そうか……」と呟いた。
「村で武器の手入れは出来ているのか?」
中々困った質問だ。
「あんまり……。でも、まともに武器を使ったのは今日が初めてですから……」
今まであくまで外で素振りをする程度しか使わなかったし、軽く布で磨く程度だった。
今日農場で戦った後は、風呂場で洗いはしたが……果たしてアレが武器の手入れとして正しいのかどうかはボクにはわからない。
それを聞いたおじさんは、「それはいかんな……」と眉を顰めている。
このおじさんは武器に詳しい人なんだろうか?
背が低かったり華奢ってわけでもないが、村のジョンたちとも雰囲気が違うし、見たところおよそ武器を扱うような人ではない印象を受けた。
「ジャック、話の前に自己紹介を済ませたらどうだ? アリスも困っておるぞ?」
おじいさんは謎のおじさんをひと睨みすると、「のう?」と苦笑しながらボクを見る。
「今のところ謎のおじさんですね」
もっとも、おじいさんの言葉に同意するようにそう言ってはみたが……よくよく考えると、この年代でボクのことを「アリス」と呼び捨てするような者なんて限られているし、何となく誰かって予測はついている。
ボクもジッと視線を向けると、謎のおじさんは肩を竦めた。
「てっきり誰かが私のことを話していたかと思いましたよ。リリアナの父……君の祖父のジャックだ。ビーンズ家の商会の責任者を務めている」
「やっぱり」
まぁ……そんなところだろうなとは思っていた。
祖父は名乗ると、改めて話の続きを始める。
「扱う品は農作物が大半だが、農作業の道具を製作する職人も抱えている。村にも道具の手入れをする物はいるが専門家はいないだろう? 後で持って来た武器を貸しなさい。君の持つ武器は群狼の物だろう? 手入れを怠けて錆びさせるには惜しい代物だ。一晩あればウチの者が丁寧に仕上げてくれるだろう」
「そうですね。街の外でも振るったばかりですし、しっかり見てもらった方がいいですよ」
おじさんの言葉に、ボクは「そうですね」と頷いたんだが、おじいさんと祖父は外の件はまだ聞いていないようだ。
「……街の外?」
「賊でも出たのか?」
二人揃って驚いた表情を浮かべている。
「賊ではありません。オオカミの群れが街のすぐ側まで来ていたんですよ。外市場の者たちと門にいた騎士が対応していたのですが、後手に回っていたところをお嬢様が助太刀に入ったのです。ああ……安心して下さい。お嬢様の活躍もあって無事街に被害は出ずに片付きました」
「それは何よりだが……こちらへ何も報せがなかったぞ?」
「お嬢様は人混みがあまり得意ではありませんので……私共の行き先を伝えたら、事情聴取は屋敷で構わないと通して貰えました」
「そうか……リチャードか」
「獣が相手で特に被害も出ていないのなら、急いで確認する必要も無いしな」
おじさんの言葉に二人は納得したように頷いているが……ボクはまた出て来たリチャードの名前に首を傾げた。
「あの……リチャードさんって誰なんです?」
多分ビーンズ家の関係者なんだろうが……祖父と違って誰か予想がつかない。
……誰なんだろう?




