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「ああ……あそこがビーンズ家のお屋敷ですよ」
そろそろ住宅区の最奥まで行ってしまうんじゃ……という地点まで来たところで、おじさんが前に建っているある立派なお屋敷を指した。
村の屋敷の外観が大きな倉庫だったから、ここは一体どんなのなんだろうとちょっと不安になっていたんだが……ここは外からのお客さんを招いたりする役割もあるそうだからか、前世の海外映画やドラマに出てくるような品の良い立派な洋館だ。
門の前には警備員もいるし……ビーンズ家のセンスを侮っていたか。
屋敷を見て感心していると、警備員の一人が門の中へと消えていった。
「うん?」
「私たちが来たことを中に報せに行ったんでしょう。急な訪問で先触れすら出していませんからね」
「あぁ……それは確かに」
今日ボクたちがここを訪れたのは、たまたま農場を魔獣を含むイノシシの群れが襲ってきたことが切っ掛けだ。
偶然訪れることになった訳だし、街に着いてからもああで先触れを出すような余裕はなかったからな……おじいさんや母と会うのも久しぶりだし……。
急に不安になって来て、「大丈夫かな?」と呟くと足を止めてしまった。
「まあ、別に追い返されるようなことはありませんよ。行きましょう」
おじさんはそう言うと、警備員に向かって「おーい」と手を振った。
顔見知りなのか、警備員もこちらに向かって手を振っている。
おじさんは村の屋敷で働く人だし、こうやって街に使いを任されるくらいだ。
この屋敷の人とも面識があって当然なのかもしれないし、この場はおじさんに任せてしまおう。
そう決めると緊張も解れてきた。
ボクは馬車を追って再び歩き始めた。
◇
無事に門を通り屋敷の中に通されると、そのまま中の応接室に案内された。
積み荷はこの屋敷の人が下ろして、一先ず敷地内の倉庫に運んでくれている。
魔獣の内臓と血液……と聞いた時は随分と驚いていたが、それでもすぐに動いていたし、中々優秀な人たちが働いているようだ。
でも、あの感じだと魔物の素材……という表現でいいんだろうか?
そういった類の物は、農業がメインのビーンズ家は直接扱ったりはしないのかもしれない。
例年だと群狼戦士団が色々処理していたみたいだし、ここに持ち込むようなことはなかったんだろう。
まぁ……それでも大丈夫と引き受けてくれていたし、商業関係にも繋がりはあるだろうから、大丈夫……なんだろう。
そんなことをおじさんと話していると、部屋のドアが開けられた。
「待たせたな」
入って来たのはおじいさんともう一人。
老人というには若いが、母やジョンよりは年上だろう。
誰だろう?
ボクが知らない人の登場に首を傾げている間に、隣のおじさんは立ち上がっておじいさんたちに挨拶をしている。
ボクもした方がいいのかな……と立ち上がろうとしたが。
「ああ、立たんでいいぞ」
おじいさんはそれを制止すると、向かいの席に着いた。
一緒のおじさんはその隣だ。
「リリアナは今代官の屋敷におってな……使いは送ったからじきに戻ってくるだろう。久しぶりだな、アリス。元気そうだが……変わりはないか?」
「ボクも子供たちも元気ですよ。村の人たちに良くしてもらってます」
「そうか……定期的に村から報告は届くが、村の者たちとも上手くやっているようで何よりだ。それで……今日は魔獣の素材を持って来たのだな?」
「はい。コレを村長から……」
どうやらおじいさんは隣のおじさんの紹介の前に、話を先に進めるつもりらしい。
それなら……と、ボクはジョンから預かって来た手紙を渡す。
話を聞いたし、多少はボクも事情を把握出来ているが……多分ジョンの手紙の方が詳しく記されているだろうし、その方がいいかな?
それにしても、母は代官の屋敷でお仕事か。
ジョンから聞きはしたが……忙しい人なんだな。




