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さて、街に入ったしもう護衛任務は完了だ。
周囲の警戒をする必要も無いし、ボクも馬車に乗ってもいいんだが……以前乗ったいい馬車と違って、この荷馬車はあまり路面のショックを吸収出来ないようだ。
ちょっと乗っただけですぐにお尻が痛くなってしまい、徒歩で移動することにした。
しっかり舗装されているとはいえ、石畳だし仕方がないだろう。
「そういえば……」
門前から離れて街中を移動していると……おじさんが門の方に振り返りながら口を開いた。
「今晩はお屋敷への来客が多いかもしれませんね」
「さっきの人たちですか?」
ボクも門の方を振り返る。
既に門が小さくしか見えない場所にまで来ているが、まだまだあの場には大勢の人がいることがわかった。
アソコで囲まれかけたが、サッサと切り上げて移動したから全くと言っていい程言葉は交わさなかったが、この辺りで活動している商人が多い様子だった。
この辺りで商売をしているのなら、あの中にも群狼戦士団と付き合いがあった者がいてもおかしくはないし、今どうなっているのかとか聞きたい者もいるだろう。
そんなことを口にすると、おじさんは苦笑しながら首を横に振った。
「それだけじゃありませんよ。もちろん、お嬢様が今言った通りの者もいるでしょうが、この街に暮らす者にも先程のお嬢様の活躍は伝わるでしょうからね」
おじさんの言葉に、ボクは「……そこまでかな?」と首を傾げる。
外の市場にいた人たちは苦戦していたみたいだが、騎士が出て来てからは大して苦戦もしていなかった。
確かにボクがメインで倒して回っていたが、別にボクがいなくても街に被害を出さずに倒せていただろうし、そこまで騒ぎになるようなことだとは思えない。
村と同じで、精々酒の場でのネタにするくらいじゃないのかな……と思い、そう言うと、おじさんが今度はハッキリ笑いながら「とんでもない」と否定する。
「こういう言い方をするのはお嬢様に失礼かもしれませんが……街の者には確かに群狼戦士団の件は伝わっています。ただ、実際にお嬢様がどれほど戦えるか……ってことがわかっていませんでしたからね。私たちだってそうだったんです。街の者は尚更でしょう」
「……なるほど」
そう言えば昼間ジョンが同じようなことを話していたことを思い出した。
自分たちが全く知らない人間が団長の座を引き継いでしまったことで、色んな人間が判断を迷っているんだろう。
んで、今日ボクが街を襲おうとしたオオカミの群れを騎士団と協力して撃退した……って話が広まると、一気に挨拶に来る……ってところかな?
ボクたちが今日持って来たイノシシだけなら、一部の者を中心に広まっていったんだろうけれど、街のすぐ側での戦闘はちょっと派手過ぎたか。
「まあ、お屋敷にはマーク様やリリアナ様……それに、リチャード様だっていらっしゃいますからね。面倒な仕事は大人に任せてしまえばいいんですよ」
おじさんはそう言うと、「わっはっは」と豪快に笑った。
言われてみればその通りだ。
ビーンズ家の街でのややこしい仕事はおじいさんや母たちが引き受けているそうだし、今回の件も任せてしまうのもいいだろう。
……ところで、リチャードさんって誰だろう?
◇
西門から商業区を通過してから、住民が暮らす屋敷のある住宅区に入っていた。
前回訪れた際は直接代官の屋敷がある行政区の方に行ったため、こちらには来るのは初めてだが……中々綺麗なエリアだと思う。
おじさんの話しではここの奥の方が貴族や富裕層が住んでいる場所で、この辺はまだ平民が暮らす場所らしいが、建物はもちろん路地だって綺麗に保たれている。
商業区から中央広場と見て来た限りでは、結構な数の住人がいるはずなのにこの清潔度。
治安がいい街なんだろうな。
……荒れる原因になりそうな人間を街の外に出しているからかな?




