90
「……うん?」
さらに何頭かのオオカミを倒して回ったところで、ボクは足を止めた。
「どうした? どこか痛めたか?」
今まで動きっぱなしだったボクが足を止めたことを不審に思ったのか、側を走っていた騎士が近づいて来た。
「いや……大丈夫ですけど、アレは?」
オオカミの数を減らしたことで、周囲を見る余裕が出来てようやく気付けたが、街道から離れた位置で、一頭の大きなオオカミが数頭のオオカミを相手に睨み合っていた。
「見たまんまだ。君が倒して回っている群れと争っているのが、あの大きなオオカミだ。我々も最初から見ていたわけではないので詳細は分からないが……どうやら、群れ同士ではなくてあの一頭と群れとで争っているようだ」
一頭で群れを相手取っていたのか。
それは凄いね……。
「ボクの敵じゃないってことですか?」
「断言は出来ないが、側を通った際にも襲ってくる気配はなかった。もっとも油断は出来ない。君は近付くなよ?」
まぁ……誰かに飼われているわけでもないし、今のところ襲ってきていないからってだけで、必ずしもボクたちの敵じゃないとは言えない。
離れた位置から見ても、アレはちょっと強そうだってことはわかるし、下手に近づいて刺激することは避けた方がいいだろう。
「わかりました。……よし、次に行きます!」
ボクは槍を振るって、槍にこびりついた血や泥を払い落とすと、再び走り始めた。
◇
戦闘を再開してから新たに何頭かのオオカミを仕留めたが、その間にも、近付きこそしなかったがあの大きなオオカミの警戒は怠らなかった。
移動中や突きを放った直後など、ことあるごとに姿を探しては行動を探っていたんだが……少なくともボクたちに仕掛けようとしたり、街に近づこうとしたりする素振りは一切なかった。
それどころか、騎士が追いやったオオカミでボクが対応出来ない個体を優先的に狙ったりと、上手く連携を図っている。
頭が良いというか勘が良いというか……敵対する気はないようだが、油断出来ない相手だってのも間違いないみたいだ。
「やぁぁっ!! ……うん?」
またオオカミを一頭弾き飛ばしたんだが、そこに街の門の辺りから歓声が聞こえた。
そちらを見ると十騎ほどの騎士が街から出て来ている。
街道に横一列に整列すると、指揮官らしき男が剣を抜いて「行くぞ!」叫んで振り下ろした。
その号令で、一斉に草原に向かって突撃を開始した。
一糸乱れぬ……と言えばいいんだろうか?
一列に並んだままで突撃をしているため逃げ場がないのか、残っていたオオカミがドンドンと蹴散らされていく。
まずは真っ直ぐ駆け抜けたかと思うと、今度は再び揃って進路を変更して、今度は街壁側の市場の方へと突撃していった。
それほど長時間戦っていたわけではないが、ボクが結構頑張って仕留めた数よりも、彼らが仕留めた数の方が多いだろう。
「まぁ……街を守ってる人たちだしね。アレくらいはやってもらわないと……」
決して負け惜しみというわけではないが、そう言って「ウンウン」と納得していると、何やらこちらを探るような視線を感じた。
「……おや?」
見るとあの大きいオオカミがこちらに顔を向けていた。
距離があるし毛が真っ黒だから怪我をしているかどうかは、ここから見ただけじゃわからないが……足はまっすぐ伸びているし、少なくとも大きな怪我をしているようには思えない。
オオカミとジッと見つめ合っていると、一緒に戦っていた騎士たちがこちらにやって来た。
戦闘はもう後続に任せたのか、穏やかな気配になっている。
「アリス団長、もう戦闘は終わる。後始末は我々が引き受けるが……どうした?」
「あのオオカミか。どうする?」
「……一緒に戦いましたし、街を襲う素振りはありませんでしたよね?」
オオカミから目を離さずにそう訊ねると、彼らは「ああ」と頷いた。
「それなら……」
左手に魔力を込めると、サッとオオカミに向けて大きく振った。




