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「あ、街から誰か出てきましたね」
先程までは中に入ろうとする者と、それを押し止めようとする兵たちとで門前は混乱していたが、人だかりが割れたかと思うと、街から騎乗した兵が何人も出てそちらに向かって行った。
「今のは街の騎士団でしたね。……街の側で賊が出るとは思えませんし、魔物でしょうか?」
「ココからじゃ見えないですね……ちょっと失礼!」
「うわぁっ!?」
ボクは側に停まっている馬車の屋根に飛び乗った。
御者が驚いた声を上げているが……緊急事態ってことで勘弁してもらおう。
「さて……と?」
屋根の上で背伸びをしながら、騒動が起きている場所の様子を眺めてみた。
あの小屋は街壁に沿ってズラッと建っていて、先程おじさんが訊ねた相手が喋っていたが、ちょっとした市場のようになっている。
そして、そこにいた人が小屋の中に逃げ込もうとしている。
……ここから見てわかることはそれくらいだ。
「お嬢様! 何かわかりますか?」
おじさんが馬車から降りてこちらに駆け寄ってくる。
「アッチにいる人たちが小屋の中に逃げ込んでるよ。アソコの中で何かが起きたんじゃなくて、外から何かが来たんだと思う!」
おじさんや周りにいる人たちにも聞こえるように言ってはみたが、我ながら何の情報にもなっていないなと思えてくる。
「仕方がないねっと。……ふっ!」
馬車の屋根から飛び降りると、両足に魔力を込めて思い切り上に向かってジャンプをする。
「んー…………? っと!」
ただ頑張ってジャンプしただけだ。
空中に留まるようなことは出来ず、数秒ほどで地上に着地する。
もっとも、それでも馬車の屋根から見るよりはずっと遠くまで見えたし、いくつか分かったことがある。
「お嬢様、何かわかりましたか?」
「うん。さっき街から何人か出て行ってたでしょう? その人たちが小屋の先の草原で何かと戦ってました。他にも一緒に戦ってる人がいたけど……ちょっと押されているみたいでしたね」
「戦う……何とでしょう?」
おじさんの言葉に、ボクは「わからない」と首を横に振って、ボクの話を聞きに側に寄って来た人たちを見る。
如何にも怪しい……って人相の者はいない。
街に入ろうってくらいだし、そんなものは流石にいないだろう。
それなら。
「とりあえず……ボクも手伝って来るから、皆で街の方に向かって下さい。一ヵ所に纏まってる方が守られやすいし、多分門の側の方が安全だから!」
「あっ!? お嬢様っ!!」
おじさんの呼び止める声が聞こえたが、それを無視して小屋が建ち並ぶ方に向かって走り出した。
◇
アリスが走り去った後、その場にいた者たちはどうしたものかと戸惑いその場に留まっている。
彼女の走り際の指示は聞こえてはいたが、そもそも彼女が何者かわからないし従っていいかがわからないからだ。
そのため。
「なあ、アンタ……ビーンズ様の村の人間だろう? あのお嬢ちゃん大丈夫なのかい?」
彼女と一緒にいた、御者に視線が集まった。
「槍を持っていたが……あんな娘見たことないぞ?」
「護衛なんだろうが、腕は信用出来るのか? 身のこなしは確かみたいだが……」
皆の声に、彼は急いで馬車の御者台に乗り込むと、荷台の積み荷を指した。
「ウチの農場を襲ってきた魔獣で全部お嬢様が仕留めた。若いが腕は確かだ。従うかどうかは好きにしたらいいが、俺は行くぞ!」
彼はそう言うと、馬に鞭を打って急いで馬車を走らせた。
その彼の様子から、周囲の者たちの間に流れていた「どうする?」という空気は一掃されて、一斉に動き出した。
「まあ……あのお嬢ちゃんの言う通り街の側なら衛兵がいるしな!」
「いざとなれば逃げ込んじまえばいいだろう!」
「おい! 歩きの者は乗り込め! 急ぐぞ!」
そう言って先に走り出した馬車に追いつくために、各々も急いで出発をした。




