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村を出発して街道に出てからボクたちはラカンパの街に向かって、徒歩と大差がない速度でのんびり移動をしていた。
積み荷は割れ物ってわけではないが、ひっくり返していいような代物でもないしあまり速度を出すことは出来ないため、どうしてもゆっくりになってしまう。
街はそう離れているわけではないし、別に急ぐ必要もないからこの速度でも問題はない……と思っていたんだが。
「……はぁ」
まだ遅い時間でもないし街道を移動する者も多く、何組もの人間がボクらを追い越していった。
ただ……何かを積んだ荷馬車と、そのすぐ隣を顔を隠して武器を持つ変な女がノロノロ進んでいる。
その組み合わせが珍しいのか、すれ違うたびにジロジロとこちらを無遠慮に見ていく。
……鬱陶しい。
「街が見えてきましたね。お嬢様は……街はこれで二度目なんですよね?」
今の溜め息を聞かれてしまったのか、御者の彼が声をかけて来た。
彼の言葉に視線を前に向けると、ラカンパの街の街壁が遠くに見えているが、それだけじゃない。
「ココからだとまだ見えづらいですけど、あの……門のすぐ側にあるのはわかりますか?」
彼が言うように、街の外には小さな小屋みたいなものが並んでいる一角があった。
「最初に来た時はずっと馬車に乗っていたんですよね。それで、向こう側ばかり見ていたので……アレは何ですか?」
ボクが初めここを通った時は、子供たちと一緒に車内から見えていたビーンズ家の農場ばかり見ていた。
あの時はエリーゼ様との会話や農場の様子ばかりに気を取られていたからで、反対側まで見る余裕がなかった。
改めて街道の反対側を見てみると、ずっと草原が広がっているんだが……街のすぐ外に人が集まるような場所が出来ている。
街の外に建っている小屋群か。
スラム……って感じじゃないが、アレは何なんだろう?
「領民以外は街に入るのにも入場料を取られることがあるでしょう?」
「あぁ……」
その辺の境は今一つ理解していないが、ボクも初め街に入る時は大丈夫なんだろうか……って緊張したのを覚えている。
今ではボクも子供たちも登録されているが、実はあの時は無登録で、エリーゼ様たちと一緒じゃなければ街に入るのにお金もかかったし、審査の手間もかかっていた。
「街に入らない人たちがあそこで過ごすんですね?」
あんな街の側で広げているってことは、承認なのか黙認なのかはともかく、別に違法ってわけじゃないんだろう。
街に入るのにいくらかからかはわからないが、安く済ますのにこしたことはない。
それにしても。
「なんか……盛り上がってますね」
まだ距離はあるのに微かにだがここまで声が聞こえてくる。
酒盛りでもしているんだろうか?
「あまり騒ぎすぎると衛兵に叱られますが、外ですからね。結構自由にやれるんですよ」
「へぇ……」
「まあ、ちょっとガラは良くないんで、お嬢様は近付かない方が良いでしょうね」
これでも傭兵団の野営地育ちなんだが、そのボクに言うってことは相当なのかな?
とりあえず、彼に「気を付けます」と答えておいた。
◇
「おや?」
街に近づくにつれて、門の側の小屋群の喧騒も大きくなって来たんだが……。
「叫び声みたいなのがしましたね。……何かあったんでしょうか?」
ただ盛り上がっている……って感じじゃない声が聞こえて来た。
門の前には入場前の者や、警備の兵がいるんだが……彼らも当然聞こえたんだろう。
門の中に入ろうとする者と、それを押し止めようとする兵とで混乱しているようだ。
「おーい、アンタ! 何があったかわかるかっ!?」
おじさんが荷馬車を止めると、前を行く商人らしき男に声をかけた。
「いや! 俺もわからない! 外市場の方で何かがあったみたいだが……他の連中も同じだ」
前を見ると、この辺りにいる者はどうしたらいいか判断に迷っているようで、足を止めていた。




