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「お嬢様……今晩もですか?」
夕食後、日課のお勉強に屋敷に行こうとしたところ、使用人の咎めるような声が背後から聞こえて来た。
使用人も入れ替わりで毎日同じ人……ってわけではないとはいえ、いい加減ボクの日課のことは全員に伝わっていると思ったんだが……違ったかな?
「いつも遅くまで屋敷で勉強をされていると聞いていますよ? 街では魔物退治をされたそうですし、今日くらいは早めに休まれてはどうですか?」
小言かと思ったらボクを気遣っていたのか。
それなら聞いてあげたいところなんだが……。
「出来るだけ早く目を通しておきたいのがあるんです。戦闘も別に何かダメージを負ったわけじゃないですからね」
そう言うと、彼女は小さく溜め息を吐いた。
「仕方がないですね。あまり無理をしないで下さいね?」
夜遊びするためじゃなくて仕事のためなんだし、やましいところは何一つとしてないんだが……気まずくはある。
ボクは「はーい」と返事をしながら、足早に玄関から外に出て行った。
◇
「おや?」
家を出て歩き始めてすぐに、裏の拠点が何やら盛り上がっていることに気付いた。
盛り上がっていると言っても外に出ないと気付けない程度なんだが、拠点は魔物や獣がうろつく村の外……それも夜だ。
一応村の住民の生活エリアからは離れてはいるとはいえ、それに配慮して夜どころか昼間でも極力騒がないようにしているのにな。
「事件が起きているって雰囲気でもないけど……聞き取れないか」
盛り上がっているのはわかっても、何を喋っているのかまではわからない。
「屋敷に行く前に……ちょっとこっちを見て来ようかな」
もし何か起きているのなら、そっちの方がジョンに伝えられるし良いだろう。
ボクは数発の明かりの魔法を塀に向かって放つと、そこを目印に一気に塀の上までジャンプした。
「さて……と?」
どこで騒いでいるのかなと、傭兵たちの小屋の方に視線を向けたんだが……そちらでは何も起きていない。
魔物除けなのか篝火は何本か立っているが、それくらいだ。
そうなると……?
「あ、いた」
オオカミ用の小屋の側に人影が集まっているのがわかった。
数人じゃなくてもっといるみたいだし……ひょっとして全員いるのかな?
確認するために、塀の上をそちらに向かって歩いて行く。
「誰だっ!? ……団長か」
「どうしたんだ? こんな夜に」
「おいおい……いくらアンタでも素手でこんなところに来るなよ」
特に足音を立てたわけでもないのに気づかれてしまった。
近くの篝火があるとはいえ、数メートルも上の塀の上にいる人間がボクだと良くわかったもんだ。
彼らの側に飛び降りると、ボクは「よくわかったね」と訊ねる。
まぁ……この村の塀の上を歩く人間なんてボクくらいかもしれないが、それでも側に立てかけた武器に手すら延ばさなかった。
油断ってわけじゃないんだろうが……と訝しんでいると、彼らはおかしそうに笑いだした。
「団長……アンタ、自分の髪の色を忘れてるんじゃないか?」
「篝火は塀から離れたところに置いているから、大分光量は弱まっているのに……団長の髪に反射していたぞ」
「夜の活動は無理だな。下手すりゃ星明りにも反射するんじゃないか?」
そう言うと、またおかしそうに笑い声をあげた。
「……それは盲点だったね」
以前から、ボクは魔力を使った身体強化の訓練なんかをコソコソ夜の間に行っていたから、強化の魔力で髪が光ることは知っていたが……普通の明かりに反射もしたりするのか。
あまり鏡を見る環境にないから、自分の髪の色がどれくらい光を反射するのか把握出来ていなかった。
盲点だったな。
夜に活動することがあるかどうかはわからないが……もしそんな機会があったら、帽子かスカーフかを被って髪を隠さないとな。




