251
塀を飛び越えた先にいた住民が行っていた作業は、オオカミ用の小屋を家のすぐ隣にも用意するためのものだった。
ジョンの指示で、何かあった際に村内に入れるためらしい。
もっとも、裏の拠点に建てた小屋はリチャードが用意した物で、小屋の内側は頑丈な檻で出来ている。
流石にそれは用意出来ないため、ここに建てているのはただの小さな小屋でしかない。
あの檻の頑丈さは、外からの襲撃を守るためでもあるんだが、同時にオオカミを閉じ込めるためでもある。
それにも関わらず、村内でただの小屋を用意するってことは……ジョンなりにオオカミを見て大丈夫と判断したんだろう。
指示を出したのは彼が拠点に足を運ぶ前だろうが、戻って来た後に撤回することだって出来たはずだしな。
とはいえ……それはあくまでボクの想像だ。
間違っていたら後々大変なことになるかもしれないし、今日のうちにしっかり聞いておいた方がいいだろう。
ボクは彼らに作業の続きをお願いすると、まずは武器を置きに家に向かった。
◇
屋敷にやって来たボクは、ジョンはどこかと訊ねたんだが……彼は自室で仕事を片付けている最中だった。
予定していた今日の仕事は片付いていたんだが、街から届いた書類に目を通したりしなければいけないそうだ。
それなら後にしようかと思ったんだが……使用人が気を利かせたのかすぐに確認に向かったところ、とりあえず部屋には通してもらえた。
その場で二十分近く待つことになってしまったが……「それでも読んでいろ」と渡された、魔獣に関しての資料のお陰で全く苦にならなかった。
「待たせたな。先程挨拶は済ませたが……まだ何かあったか?」
仕事を片付けたジョンは、前置きもなく用件を訊ねて来た。
「……外の小屋の設置が完了したことと、後そこの裏庭の小屋の件です」
「あれか。……理由はわからないが、どうやらアリスをボスと定めたようだ。命令を無視して人間を襲うだなんて真似はしないだろう」
「ボクもそう思いますけど……いいんですか?」
それを伝える術はないが、何となくあのオオカミは人を襲ったりはしないだろうと思っている。
ただ、何となく……で村の中に入れてしまってもいいんだろうか?
そう訊ねようとしたが、ジョンは口を開きかけたボクを遮って「構わん」と言い切った。
「祖父もリチャードも同様の意見らしい。私自身は見たことはないが、従魔とはそういうものだろう?」
「まぁ……指示には従ってくれますよ」
「なら、それでいい。だが、流石にいきなり村の中を好き勝手に歩き回らせては、住民が怯えてしまうかもしれない。そこの裏庭と村の門。移動を許すのはそこだけだ」
「わかりました。また夜に書庫にお邪魔させてもらいます。……エリーゼ様は?」
「エリーゼ様は集会所で教師役だ。用があるなら行って来なさい」
今はこんなところにいるが、エリーゼ様はアレでも立派な領主の娘だ。
書物にも載っていないような色々知識を持っているかも知れないと思ったんだが、仕事中か。
「止めておきます。仕事の邪魔はしたくないですからね」
ボクは席を立つと、渡された資料をジョンに返して部屋を後にした。
◇
家に戻ったボクは、届けられていた荷物の整理に手間を取られていた。
オオカミの世話用の道具の整理はもちろんだが、ボクの仕事用の服もそうだった。
ボク専用ではあるが、改めて広げてみると悪くはない。
使用人たちにコレからは仕事中はこの服を着る……と伝えたり、同梱されていた手入れの仕方についての解説書を一緒に読んだり……細々した作業を要したが、使用人たちも服の布へのダメージを気にする必要がなくなったとかでホッとした表情を浮かべていた。
そんなことを行っていると、集会所での勉強を終えた子供たちが帰って来た。
どうやら子供たちにもボクの街での件は伝えられていたようで、明日村の子供たちに開設するためにと、魔物との戦闘についてアレコレ喋らされることになった。
ボクは状況に流されただけで大したことは話せなかったんだが……子供たちの娯楽には丁度いいんだろうな。




