249
アレから再び森の中を歩いていたが、オオカミが何かを見つけて足を止めたり警戒をしたりすることはなかった。
結局アレが何だったのかはわからないままだったが、川の近くまで行ってから引き返して、さらに東に一キロメートルほどをグルっと見て回った。
途中でウサギやシカを見つけた時、足を止めてジッと睨みつけて相手の力を見定めるようなことを行っていたし、今は襲うことはなかったが、その気になればいつでも仕留めることは出来るはずだ。
食料と水場のどちらも大量にある。
必要になったらまた行動範囲を広げていけばいいし、一先ずはこれくらいで十分だろう。
ボクたちは拠点に引き返すことにした。
「まあ……大人しいし、あんたの言うことをちゃんと聞くってことはよくわかったよ」
「俺たちに襲い掛かるようなこともなさそうだしな。後で仲間に安心していいって伝えておく」
「そうしてもらえると助かるね」
数十分程度の短い間だったが、このオオカミが大人しい性質だってことはわかってもらえたようだ。
他の傭兵たちにもそのことを伝えるようだし、すぐに慣れるのは難しいかもしれないが、とりあえず拠点で一緒に暮らす分には問題ないだろう。
拠点に辿り着くまで、ボクたちはそのままお喋りを続けていた。
◇
魔物にも獣にも襲われることなく、ボクたちは無事拠点に到着した。
それじゃー……村に報告に行こうかなと考えていたところ、拠点の奥の小屋からヨーゼフが出て来たんだが、彼の後に続いて小屋から出てくる男が二人。
「あれ? ジョンさんに……ジェイクたちまで」
村長のジョンとジェイクだ。
さらに、拠点の隅っこで所在なさげに小さくなっているジェイクの取り巻きたちもいる。
「アリス!」
拠点に戻って来たボクに気付いたジョンが、コッチに来いと手招きをしている。
「団長に用があるみたいだな」
「……そうだね。付き合ってくれてありがとうね」
「おう。カイルへの報告は俺らがやっておくよ」
「お願い」
ボクは一緒に森の中を歩いた二人に礼を言うと、ジョンの下に向かった。
だが、もう目の前……ってところでジェイクが前に出てくると、右手を突き出して「悪い、そこで止まってくれ」と言ってきた。
オオカミを警戒しているようだ。
ジョンはそこまで警戒していないようで、溜め息交じりに「大袈裟な……」とボヤいているが、まぁ……警戒心が強いのは悪いことじゃないはずだ。
ヨーゼフも、こちらを見ると小さく頷いている。
「はいはい。それで……何ですか? このコのことなら後で報告に行こうと思ってたんですけど……」
「街からの報告は既に目を通してある。問題はないんだな?」
「ええ。ただ、報告にもあったかもしれませんが、食事は自分で仕留めた物の方がいいみたいなんで、森の中をある程度好きに行動させたいんです。構いませんか?」
そう言うと、ジェイクは嫌そうな表情を浮かべるが、ジョンは「好きにしろ」と大きく頷いた。
「寝床はこの拠点なんだろう? 村の番犬替わりに丁度いい」
そして、オオカミをジッと見る。
「随分と大人しいな。名前はあるのか?」
「まだ決めてないんですよね……」
「そうか。王族や高位の貴族が飼っている動物には神話に出来る獣の名前を付けることがある。罪に問われるようなことはないだろうが……余計な面倒毎を避けるためにも、それらは避けておいた方がいいだろう」
「む……わかりました」
こっそり神話や物語に出て来る動物の名前を付けようかな……って考えていたんだが、止めた方がいいのか。
そうなると……何がいいのかな。
イヌやネコなら気軽に名付けられるんだが……オオカミの魔獣となると……。
ボクが悩んでいることがわかったのか、ジョンは苦笑しながら「まあ……余程変な名前でもなければ好きにしたらいい」と言って、ジェイクたちに声をかけて村に帰って行った。




