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母たちとの話を終えてからしばらくの間、「何か反応しないかな……」と考えながらオオカミに話しかけていたんだが、魔力を流した指示には従っても、会話には反応を示さないでいた。
まぁ……人の家で勝手に動いたりされるよりは、このまま大人しくしてくれている方が楽だし助かるんだが、オオカミってどんな生態なんだっけ?
村の魔物の生態なんかを記した本に、オオカミの項目もあったが……帰ったら改めて読み直しておこうかな。
「それにしても……イヌとはまた違うね。オオカミって種族の違いなのか、それとも魔獣っていう生物の枠の違いなのか。どっちなのかな?」
オオカミの周りをグルっと回って全身を観察しているが、一見ただの大きいイヌだ。
飼育経験はないが、前世のテレビなどで見たウルフドッグ……アレと似ている気がする。
もっとも……やはり魔物だけあって、額の魔石以外にも普通の動物とは違う点だっていくつもある。
例えば……。
「お手……! と言ってもわからないね。前足を見せて!」
ボクは魔力を込めて前足を上げてこちらに見せるように伝えると、オオカミはゆっくり右前足をボクの前に持ち上げた。
「パッと見イヌの足だけど……爪があるよね。ネコとかに似てるかも」
イヌの足だと抑え込んだりくらいしか出来ないが、この足なら引き裂いたり突き刺したり……噛みつく以外にも色々出来そうだ。
「口開けて」
開いた口を見ると、鋭く伸びた牙のような歯が見える。
顎の力だって当然強いだろうし……この口で噛みつかれたら、並の獣や魔物なら一瞬だ。
口を閉じさせて、今度は体を触って行く。
毛皮の奥にゴムみたいな弾力があるし……恐らく相当打たれ強いだろうってことがすぐにわかる。
これなら、裏の森に出て来る魔物や獣が相手でもまず負けることはないだろう。
「あんまり強すぎても、周りに理解を得るのが大変かもしれないけど……頼りになるのは間違いなさそうだし、アピールポイントとしては十分だね」
エリーゼ様たちは大丈夫だろうが、ジョンや村の住民の説得は少々不安だが、おじいさんや祖父やリチャードたちの口添えもあるし、まぁ……なんとかなるだろう。
ボクは首に腕を回して、首元を撫でながらそんなことを考えていた。
◇
「うん? 誰か来たみたいだね」
門の方に馬車が停まる音と、警備員たちが出迎えている声が聞こえて来た。
何を話しているのかまではわからないが……この感じは屋敷の人間かな?
そうなると……祖父かリチャードあたりかな?
そちらに顔を向けていると、ボクが座っていたベンチの側の窓が開いて母が顔を覗かせた。
「アリス、父が帰宅したわ。いくつか村に送る道具を用意しているから見に来て頂戴」
「ん……わかりました。この子はどうしましょうか……」
今帰って来たのは祖父だったか。
屋敷の中に入って行く気配を感じるし、中で何かをやるんだろうが……オオカミは連れて行けないしな。
かといって、ここに置いて行くわけにもいかないし……どうしようか。
「そうね……まあ、いいわ。一緒に裏に回って」
母は屋敷の裏手を指してそう言うと、中に戻って行った。
「……ふむ。行こうか?」
別に人を襲うわけじゃないし、大人しくしておくように言いつけたら使用人に任せても大丈夫だろう。
ボクはオオカミと共に、母に言われた裏口に向かうことにした。
◇
「こっちよ」
裏に回ると既に母が待っていたんだが、彼女が指したのは裏口ではなくて両開きの大きな扉だった。
「コッチに来たのは初めてですけど……こんなのあったんですね。何なんですか?」
「酒樽や食品が入った木箱を運び込むための搬入口よ。今は中に余裕があるからそこで待っていてもらうわ。……大丈夫よね?」
「変な臭いとかがなければ多分……大丈夫だよね?」
母の言葉が理解出来たかはわからないが、オオカミはボクの顔を見て小さく吠えた。




