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「そろそろかな……?」
ボクはオオカミの額に当てた書類を離して確認する。
この書類は一枚目と違って魔術的な契約書で、魔力を流すことで成立すると言われた。
もっとも、リングの用に何かを強制するようなものではなくて、あくまで魔力を登録して個人を証明するための物らしい。
人間同士だったら互いに魔力を流すだけでいいんだが、今回のように魔物が相手の場合は、ああやって魔力の反発を利用するそうだ。
もっと複雑な契約だと無理らしいが、この契約ならこれでも十分なんだろう。
「ふむ? ……ちょっとわからないね」
ボクのサインの下の欄がオオカミの欄なんだが、何やら黒色や灰色の線が綺麗にグラデーションのように浮き出ている。
規則性はあるみたいだが……果たしてこれで成立したのかどうなのか。
「見せてみろ」
「どうぞ」
「…………ああ、問題ない。上手く出来ているな」
リチャードはそう言うと、騎士団長や代官たちを呼んでその書類を見せている。
「それで何かわかるんですか?」
「オオカミの欄に整った模様が浮き出ているだろう? 魔力に乱れがあると、この模様がもっと不規則に乱れるんだ。それで従えられているかどうかも確かめるんだが……いらぬ心配だったな」
「あ……あの模様はそういう意味があったんですね」
ただの魔力の識別……バーコードみたいな物なのかと思ったが、安定具合も確かめていたのか。
確かにあの方法だったら、主が危険な目にあうだけで簡単に確かめることが出来るし合理的だ。
初めから教えてくれたらって気がしなくもないが、それでボクが変に意識してしまっても正確な結果は出せないかもしれないし、だまっていたのも理解出来る。
ともあれ。
「それで、問題はないってことがわかったんですね?」
「そうだな。これから騎士団の詰め所で改めて登録作業を行う。……移動して構いませんか?」
「そちらの登録は正式なもので頼むぞ」
代官はリチャードの言葉に頷くと、ジッとオオカミに視線を向ける。
十秒ほど黙って睨んでいたが、フッと表情を緩めるとこちらを見た。
「群狼戦士団にオオカミの従魔……中々悪くない組み合わせだな。事故が起きないように気を付けてくれよ」
代官はそう言うと、「後は任せる」と屋敷の中へ戻って行った。
◇
さて、代官の屋敷で契約を済ませたボクたちは、お次は騎士団の詰め所へと移動をすることになった。
同じ行政区にある施設だし大した距離でもないからすぐに到着出来るだろう。
そして、母は今度は同行せずに、真っ直ぐ馬車でビーンズ家の本邸に先に戻って行った。
ボクがリチャードに呼ばれてどこぞに去っていったため、状況を確認しに急遽こちらにやって来たが、母はこちらでやる仕事がたくさんなるし仕方がないだろう。
……決して、ボクたち一行と行動したくないってわけじゃないよな?
「……よし。ついて来ているな」
リチャードは後ろを振り返って、オオカミがちゃんと後を追って来ていることを確認した。
ちなみに、ボクはリチャードの後ろに乗っている。
走っても構わなかったんだが……街中をオオカミと一緒に馬と並走するのは止めて欲しかったようだ。
二人乗りの馬の後を追って、オオカミが走るのは大丈夫なんだろうか……って気もするが、まぁ……通りを歩く者も少ないし、騒ぎになることはないだろう。
「着いたな。念のため、我々についてくるように指示を出してくれ」
騎士団の詰め所が見えて来たところで、リチャードからそんな指示が出た。
屋敷を出て以降、ここまでちゃんとついて来ているし、心配はいらないと思うが……もし街中で勝手に行動されたら困るし、細目な指示は必要だろう。
「やってみます」
ボクはそう返事をすると、魔力の範囲を後ろを走っているオオカミまで広げていった。




