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さて、代官はボクたちの要望を了承するとすぐに、部屋に契約に必要な道具を持って来させた。
仰々しい木のケースだが、そこから出て来たのはただの書類だ。
たかが書類に大袈裟な……と以前のボクなら思っていただろうが、これが何かわかっているとそうは思わない。
リングを使用する際に同じような物を見たからな。
むしろ。
「……これだけなんですか?」
もっと怪しげな儀式風だったリングの際に比べると、数枚の書類だけしかない今回は物足りなく思える。
「アレは行動を制限したり制約を加える代物だからな。先程の強力な魔物について話したが……人間の行動を制限するのはある意味それに近いんだ。あのオオカミの場合はそこまでではないな」
代官はそう答えると、サインを記した書類をこちらに渡して来る。
「……ほぅ?」
受け取った書類は普通の紙とは材質が違うが……特に怪しい雰囲気はない。
彼が言うようにレベルが違うんだろうな。
ともあれ、その書類を読んでいく。
「……この魔物の行動に責任を持つ……だけか」
実にシンプルでわかりやすい。
ボクの声が聞こえたのか、リチャードが近付いてくると書類を覗き込んだ。
「わかりやすくていいだろう? ただ、傭兵たちの時は責任が領主様と、グラス卿、エリーゼ様とで分担されたが、今回は君一人になる。しっかりと責任を持たなければいけないな。やれるか?」
「まぁ……大丈夫と思います」
「うむ。屋敷にはすでに私が連絡を行っているし、ジョンへも一筆書いておこう」
そう言って笑うと、母を呼ぶ。
「あの傭兵たちは村で敵視されたりはしていないんだろう?」
「ええ。仲間扱いされてはいないけれど……少なくとももう敵だとは思われていないわね。最近森で魔物を狩る機会が増えていたし……彼らの拠点になら置いても問題ないと思うわ」
母たちの会話を聞きながら、ボクは改めて書類に目を通してから問題ないことを確認すると、空いた欄にサインを書く。
「これで終わりなんですか?」
「いや、この後件の魔獣の前で魔力を流してもらう」
代官はサインを確認すると、別の書類を取り出してそれにもサインを書く。
そして、先程同様にボクにもサインを書かせると、席を立った。
「では、オオカミの下に向かうとしよう」
◇
ボクたちは揃って裏庭の荷台に積まれた檻の下に移動をした。
流石に放置しているようなことはなく兵が二人監視についていたが、騎士団長が「何か問題は?」と訊ねると、揃って首を横に振る。
「何も。初めは周囲を警戒していましたが、すぐに大人しく伏せていましたよ」
不自由な環境に押し込まれているにもかかわらず、それだけ落ち着けている……って辺り、やはりこのオオカミは大分知能が高いみたいだ。
ボクは檻の鍵を受け取って荷台に飛び乗ると、開錠して檻の扉を開く。
「おいで。大人しくするんだよ?」
魔力を流した指示を出しながら、ボクはオオカミを檻から出した。
母や代官は戦える人じゃないからか、荷台から距離を取っていたが……それでもオオカミ自体には興味があるようで視線をオオカミに向かっている。
「確かに随分と大人しいな。これなら問題はないだろう」
代官はそう言うと、先程書いた二枚目の書類をボクの前に出した。
「使い方は先程説明したとおりだが、大丈夫か?」
「ええ。この間似たようなことをしましたから大丈夫です」
ボクはその書類を受け取ると、オオカミの額に当てた。
「すぐ終わるからね……」
ボクはそのまま少量の魔力を流して行くと、フッと跳ね返ってくるような感触があった。
ボクの魔力に対してオオカミ側の魔力が反発した感触だ。
照明の魔法よりも少ないくらいの魔力だし、オオカミも痛みはもちろん不快さも感じなかっただろう。
特に反応をすることもなく大人しく座っているままだ。




