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代官の屋敷に到着すると、ボクたちはすぐに彼の執務室に通された。
魔物が森から出て来たことや、それの討伐にリチャードたちが動いたこと。
そして、ボクも依頼を受けて……その際に魔獣も一緒に魔物の群れと戦ったってことはちゃんと伝えられていた。
契約に関しては改めて母を通して結ぶと約束もしたし、何故魔物が森の外に出て来たか……って問題は残ってはいるが、一先ずこの件は一段落ついたと見ていいだろう。
そして、ボクにとってある意味本命のオオカミの件だが……少々揉めた。
代官のゴードン卿曰く、いくら大して強力な魔物ではないからって、本来の手続きを飛ばして許可を出すことは出来ない……らしい。
まさに、ボクたちは大丈夫だと分かっていても、もし街中で何かあったらどれだけ犠牲が出るかわからない以上は、慎重に判断するのは理解出来る。
リチャードとあの重装備の騎兵の隊長と……さらにはラカンパの騎士団団長まで話し合いの途中でやって来て、彼らの説得を経て渋々ではあるが了承してくれた。
何でそこまでしてくれるんだろう……と思うが、オオカミと組むことでボクの戦力が上がることがわかったし、魔物が出た際の対処を期待したいんだろうな。
ただ……個人的に気になることがある。
「あの……」
話が纏まったのを待ってそれを訊ねると、リチャードと騎士団団長が揃ってこちらに振り向く。
「何かな? アリス」
「契約に何か付け加えたい注文でもあるかね?」
「あぁ……いえ、そんな大したことじゃないんですけど……」
不備があったら大変だからなのか、二人とも随分真剣な表情をしている。
別に訊ねなくてもよかっただろうかと躊躇していると、母が「さっさと言ってしまいなさい」と促してきた。
確かに、もう口に出してしまったし、今更止めとくとも言えないな。
ボクは小さく「よし……」と呟いて気合を入れると、改めて顔を前に向けた。
「あのオオカミのことを大して強力じゃない魔物だって言っていましたけど……そうなんですか? ボクはかなり強いと思うんですけど……」
オオカミは屋敷の裏庭に馬車ごと運ばれていてここにはいないため、代官や騎士団団長は直接は目にしていないが、リチャードはあのオオカミを間近で見ているから、その強さを知っているはずだ。
それでも強力じゃないと判断するんだろうか?
ボクの疑問を理解したのか、リチャードは「ああ……」と苦笑している。
「魔物の書類上の分類の仕方だな。アリス、君はあのオオカミが一頭でこの街を正面から挑んで滅ぼせると思うか? 例えば騎士団や君たち傭兵がいなかったとしてもだ」
「え? ……それは不可能だと思いますよ?」
あのオオカミは強いことは強いが、それでも街一つを滅ぼせるかというと、街にまともな戦力がいなくても不可能だろう。
住民に犠牲は出ても、家に籠られたり二階や三階から物を投げられたり抵抗されたら、適当なところで諦めて離れていくんじゃないかな?
「強力な魔物というのは、その一体で街を滅ぼしうる存在を指すんだ。流石にそのレベルの魔物だと、一都市だけでは契約は出来ないな。領都や王都まで行く必要が出て来る」
「アレはそこまでではないからこそ、この街だけで完結出来るな」
二人はそんなことを言っているが、それよりもボクは気になることがもう一つ出て来た。
「……そんな魔物がいるんですか?」
一体で街を滅ぼせるとか……まるで前世のファンタジー作品の出て来るモンスターみたいな存在だ。
そんな者が本当に実在するんだろうか……とリチャードたちに恐る恐る訊ねると、彼らは揃って頷いた。
「幸いこの周辺には生息しないが国内でも何匹か確認されているし、王都で一匹使役されているぞ。王都の騎士団で代々契約を受け継がれているそうだ」
「それに比べたら、あのオオカミの契約など大したことはない」
そう言って騎士団の二人は笑い、代官は溜め息を吐きながら首を横に振っていた。




