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「ボクが足止めしておくので、伯父さんたちに伝えてきて下さい」
リチャードたちは接近するオオカミにまだ気づいていないようだ。
あのオオカミがどれくらいの強さかはわからないが、あのサイズに毛の色……弱いわけがない。
前回街を訪れた際に一緒になったあのオオカミと同じくらいの強さの可能性もある。
そんなのに背後から突っ込んでこられたらあっという間に大混乱だ。
だが、まともに戦えるかはともかく、足止め程度ならボクでも出来るだろう。
「アリス団長!? 武器をっ!」
ボクが武器を受け取らずに走って行こうとしたのを、従者が慌てて呼び止めるが、ボクは「必要ない」と断る。
倒すことが目的じゃないし、それならより振り回しやすく魔力の通りもいい小剣を使った方がいいだろう。
「お願いしますね!」
改めて伝令を頼むと、ボクは接近してくるオオカミに向かって走り出した。
◇
「……大きいねっ!?」
距離が縮まるにつれて、オオカミのサイズがハッキリと分かってくる。
ビーンズ家の農場や裏手の森でオオカミやイノシシとは何度か戦ってきたが……そのどれよりも大きい。
初めて戦ったイノシシの魔獣……より一回りほど小さいが、それでも並のウシくらいの大きさはあるだろう。
「とりあえず……!」
ボクはまずは全身を魔力で強化する。
そして、小剣を抜いてそれにも魔力を一気に流していく。
ミスリル比率が普段使っているあの槍よりもずっと高いだけあって、あっという間に小剣全体が強烈な青い光を纏った。
この小剣はあまり直接戦うのには向いていないらしいが……これだけ魔力を込めたのなら、このオオカミがどれだけ強力だとしてもある程度は渡り合えるだろう。
この剣は実質魔法の発動用の杖みたいな物で、ボクの拙い魔法の技術でもそれっぽい真似は出来るから何とかなる。
「真面目に戦うつもりはないけどね。適当に魔法を撃ちながら時間稼ぎ……を?」
とりあえず、タイミングを見計らって風の魔法でも撃って足止めしようかな……と剣を構えたんだが、当のオオカミが十メートルほどのところで自ら足を止めた。
そして、ボクを見ている。
「ん? んん?? ……敵意はなさそうだね?」
座り込みこそしないが、襲ってくる様子も横を抜けていく様子もないし……どういうつもりだろうか。
数秒ほどではあるが、後ろで戦闘が繰り広げているにもかかわらずオオカミと睨めっこをしてしまった。
「…………もしかしてこの間のオオカミかな?」
ボクにはオオカミを見分けることは出来ないが、毛の色からかなり強力な魔物なのは間違いないはずだし、そのレベルの魔物でボクに敵対する気のないのが何体もいるとは思えない。
多分間違ってはいないと思うんだが……ボクの問いかけには全く反応を見せない。
「人の言葉は通じないか。まぁ……当たり前だよね。でも、前は何となく意思の疎通が出来た気がしたんだけど……」
魔力を放ちはしたけれど、攻撃とは勘違いしないでちゃんと立ち去ってくれたんだ。
言葉は通じなくても、意思の疎通は何となく出来そうなんだけどな。
「…………魔力かな?」
悠長に実験をしている場合じゃないのかもしれないが、この場に足止めすることは出来ているし別にいいよね?
ボクは魔力をオオカミの下までゆっくりと広げていく。
そして、同時に「この間のオオカミかな?」と頭の中に思い浮かべる。
魔力で何でもかんでも出来る……とは思っていないが、話を聞く気があるみたいだし何となく上手くいきそうな気はするんだよな。
一応刺激したことで襲い掛かって来られても対応出来るように、オオカミから目を離さずに続けていくと、オオカミの足元まで魔力が到達した。
どうなるかな……とジッとオオカミを見ていると、オオカミもこちらから目を離さなかったが……一言だけ「ウォフ」と短く吠えた。




