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「これがお嬢様か……参ったわね。私たちはこの辺りの店を冷やかすだけでも結構楽しめていたんだけれど……そうなると……」
ボクの反応を見てお姉さんは腰に手を当てて深刻な表情で悩んでいる。
どうもウィンドウショッピングは、彼女とお友達の街でのお決まりの遊びの一つだったらしい。
それが空振りに終わってしまったことで想定が狂ってしまったようだ。
「前寄ったカフェに行くのもいいけど……ちょっと時間が余り過ぎるのよね」
「立ち寄ったところは軽く見ただけですからね……」
大して時間を潰せないままだし、槍の手入れが終わる時間はまだまだ先だ。
行くにしても、流石にまだ早すぎる気がする。
どうしたものかな……と、お姉さんだけに任せずボクも何か案を出そうと、通りの両サイドに並ぶ建物に視線を向ける。
……何かのお店だってことはわかるんだが、前世のようにデカデカと看板が出ているわけでもないし、店構えを眺めるだけではまるでわからない。
まだこの街は二度目のボクには、勘で選ぶことしか出来ないようだ。
もし、将来気が向いてお店の経営とかに手を出したら、その時はもっとわかりやすいように大きな看板を出したり、幟を立てたりしようかな。
条例とかあるんだろうか……?
いい案が出ずにどうでもいいことを考え出していたところ、「あっ!?」と声を上げた。
「どうしたの? 突然……」
振り返ったお姉さんが驚いたような表情を浮かべているが、一先ずそれは気にせず、頭に浮かんだ考えを口にする。
「ビーンズ家のお店に行ってみたいです」
◇
ビーンズ家のラカンパでの役割は農業だ。
人間用の食料に家畜や軍馬等の飼料、もちろん酪農だって営んでいる。
そして薬品の素材になる薬草なども育てているそうで、このラカンパの街周辺だけじゃなくて領内や国内に広く卸しているらしい。
ビーンズ家に何かあると国内の食糧事情に大きな影響が出てしまうため、本業をしっかり安定させることが重要で、ラカンパ七家の他の家も協力してくれているそうだ。
だが……それはそれとして、ただただ一次生産者として留まるだけじゃなくて、農産物やそれらを用いた加工物、さらには本業で蓄えた余力を用いた他の産業だったり……商会の経営だったりも行っている。
投資が大事なのは間違いないし、当主の甥であるボクの祖父を会頭に据えているあたり、ビーンズ家としても手を抜く気はないんだろう。
槍の手入れを任せている工房も商会の傘下と言っていたし、全くの無関係だってことはない。
ってことで、お姉さんにビーンズ家の商会本店に案内してもらったんだが……。
「ここよ。……緊張するわね」
ここまで案内してくれたはいいが、お姉さんにこれまでの威勢の良さがなくなっている。
「あんまり来ないんですか?」
確かお姉さんの家族や親族が工房や商会で働いていると聞いたが……彼女はコッチには足を運ばないのかな?
「叱られるようなことはないけれど……ここはビーンズ家の人間も出入りしているし、あんまり近付かないようにしているのよ。何かあった時に家に迷惑をかけたくないし……」
まぁ……それを聞いた限りでは、確かに先程までの店のように呑気に近づこうとは思えないだろう。
だが、お姉さんは深い息を吐くと、バっと顔を上げてボクを見る。
「お嬢様が一緒だし、大丈夫よね! 何かあった時は頼むわね!」
何かあったとしても、果たしてボクが何の役に立つのかはわからないが……。
「お姉さんに飛び火しないように、弁護はしますよ」
それくらいは任せてもらおう。
お姉さんは満足そうに頷くと、正面のドアの前に立つ警備の人間たちに近付いて行く。
彼らもボクたちの姿には気づいたし気にはなっていたんだろう。
その場から動かないではいるが、揃ってお姉さんに視線を向けていた。




