210
工房に到着すると、ボクたちはまずは応接室に通された。
基本的に接客をする場じゃないこの工房の数少ないお客さん用のスペースなんだとか。
事前に簡単にだが話は通っていたし、母の紹介状の威光もあってか、あまり余裕がない魔導士のスケジュールに上手いことねじ込んでくれた。
お陰様で、どうやらすぐに作業を開始してもらえるようだ。
この分ならパパっと手入れは完了するかもしれないな……と思ったんだが。
「まだ大して日にちが経っていないのに……ところどころ回路に詰まりが出てますね。どんな使い方をしてるんですか?」
ボクの槍を見せた職人が呆れたような声でそんなことを言っているし、横から覗き込んでいる魔導士らしき男も渋い表情を浮かべている。
「どんな……って普通に使ってたはずなんですけど……」
強いて挙げるなら木を一本へし折ったくらいだろうか?
ただ、穂先が欠けたり柄が歪んだりしていたのならともかく、回路に詰まり……となると、関係はなさそうだよな。
そう思ったんだが、ボクの話を聞いた職人たちは「それだっ!」と揃って声を上げた。
「お嬢様……込める魔力の量が多過ぎるんですよ」
「よほどの強敵と出会った時でもなければ、いくらミスリル製の槍とはいえそこまで魔力を込めることはありませんからね」
「……壊れちゃったりしますか?」
この槍が槍としての性能がどれくらいなのかはわからないが、形状といい魔力の込めやすさといい……ボクには扱いやすくてお気に入りなんだが、壊れたら困るぞ?
「ああ……この間ここで手入れをした時のように、少々手間がかかることになるでしょうが、穂先が砕けたり深い傷が入りでもしなければ大丈夫ですよ」
「回路を発動するのに本来よりも魔力の必要量が多くなったりはしますが、そう簡単には壊れたりはしません。ただ、その状況で長く使い続けると、元の状態に復旧するのにも手間がかかりますね」
どうやら少々性能が落ちることはあっても、すぐに壊れたりするようなことはなさそうだ。
それを聞いてホッと胸を撫で下ろしていると、さらに職人たちが話を続ける。
「無理に使い方を改める必要はないですが……工房に手入れに来る頻度を増やした方がいいでしょう」
「確かリリアナ様の護衛で街に来られたんですよね? それでしたら、毎回リリアナ様の移動に合わせてお嬢様も一緒に来られたらどうでしょうか? ひと月に二度なら丁度いいと思いますよ」
「……そうですね。後で母と相談してみます。っと、それはそれとして、槍は任せても大丈夫なんですか?」
「ええ。ついでにそちらの剣も預かりましょうか? 丸腰が不安でしたら、代剣を用意しますが……?」
「む……いえ、コッチは魔法の訓練にしか使ってないから大丈夫です」
どうするかと聞かれると少々迷ってしまうが、コッチは部屋での魔法の訓練くらいにしか使っていないし、わざわざ手入れをするほどではないだろう。
それよりも、コッチに手間をかけるくらいなら槍を見て欲しい。
「わかりました。それでは……穂先を研いで柄の歪みも直して……そうですね、二時間ほど時間を頂けますか?」
……二時間か。
思ったよりもずっと時間がかかるが、中途半端な仕上がりじゃ困るしちゃんと仕上げてもらおう。
「お願いします。……ボクたちはその間街で用事を片付けて来ますけど、構いませんか?」
「はい。何でしたら完了したらお屋敷にお届けしますよ?」
お届けか……どうしようか。
ボクはお姉さんに視線を送ると。
「そうね……次に向かう先は離れているし……その方がいいかもしれないわ。お願いしましょう」
お姉さんの言葉に、職人たちは頷いた。
「おう、任せておきな。……離れた場所っていうとどこに行くんだ?」
「お嬢様の服を受け取りに行くのよ。そのついでに少し街歩きね」




