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ノックの音に、ドアに向かって「どうぞ」と伝えると、中に入って来たのはエリーゼ様と母だった。
「エリーゼ様に……リリアナさん? どうしたんです? こんな時間に……」
二人とも屋敷で暮らしているし、屋敷で顔を合わせること自体はおかしなことじゃないんだが、この時間にこの場所で……となると、何か起きたのかと身構えてしまう。
その様子に気付いたのか、エリーゼ様が苦笑しながら「楽にしてくれて構いませんよ」と言いながら、二人はボクの前にやって来る。
そして、机の上に視線を向けた。
「魔物の資料ね。……裏の森についてはもう調べたのかしら?」
「そっちは最初の頃に。それで、ボクに何か用ですか? 二人でお勉強ってわけでもないんでしょう?」
「ええ。……リリアナさんからお先にどうぞ」
母は「そうさせてもらうわ」と答えると、空いた席の一つに座った。
ボクと目線を合わせているんだが……ジッと見ていたかと思うと「はあ……」と隠す気のない大きな溜め息を一つ吐いた。
「……何?」
「……まあ、いいわ。明日私は街に向かうの。貴女にその護衛を任せたいのだけれど、いいかしら?」
「あら? もうですか?」
母は村と屋敷と、月の半分ずつくらいの期間で移動している。
今回は既に二十日近く村に滞在しているが……エリーゼ様たちや傭兵たちの問題が片付くまで残る……と言っていたんだよな。
エリーゼ様は予想以上の順応性の高さを見せて村の人間たちと馴染んでいるし、傭兵たちも何の問題も起こさずに裏の拠点建築を完了させてはいるが……まだまだ隔離された別の集団として扱われている。
追い出されるようなことはないだろうが、ジョンを始めとした、彼らをあまり良い印象を抱いていない住民たちの間に入る母がいなくなって大丈夫だろうか?
ボクが疑問に首を傾げていると、母は「それもそうね」と肩を竦めた。
「貴女……ジョンが最近裏の作業を何度か見学に行っていたのは知っているかしら?」
「ジョンさんが? いえ……たまに会った時に話はするけど、そんなことは一言も」
ボクは母の言葉に首を横に振って答えた。
ヨーゼフから報告を受けたりはしていただろうが……自分の目でも確認しに行っていたのか。
「貴女と一緒に見に行って何か考えが変わったのかもしれないわね。明後日から彼らを農場や村の警備に立たせることになったわ」
「おぉ……!? それは良かった。もう外でやることがなくなってきてたし、このままだと暇になっちゃいますからね……」
森の中の探索とかが出来たらまた話は別なんだろうが、その許可が下りていない以上、彼らの出来ることといえば……拠点の周りで訓練くらいだろう。
別にそれだって無駄なことではないんだろうが……人手が余っているのに使わないのはもったいなさ過ぎる。
ジェイクもことあるごとにジョンに要求していたらしいし、これには満足するだろう。
しかし。
「……エリーゼ様はどうなんです?」
傭兵たちは活動の場が広がるが、エリーゼ様はどうなんだろうか?
未だに彼女は屋敷と集会所の往復程度しか出歩けないでいる。
腕っぷしはともかく、指揮は出来るみたいだし彼女も動けると助かるんだが……と、エリーゼ様に視線を向けると彼女は苦笑しながら首を横に振った。
「私はこのまま村の中で過ごすように……と言われました。ですが、彼らの制限が解かれたと考えたら私もそう遠くないうちに……でしょう」
「そうですね。……あぁ、護衛の件はいいですよ。いつ頃出発ですか?」
二人との話に夢中になってついつい脱線してしまっていたが、明日はいつも通り過ごそうと思っていたし、特に予定を入れていないし母の護衛を引き受けるのは問題ない。
「助かるわ。出発は朝のうちね。前回と違って街で一晩過ごすなんてことはないから安心しなさい」




