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報告書を読み始めて少し経った頃、ドアをノックする音に顔を上げた。
手前の書庫はともかく、コッチにまで来るとなると……誰だ?
ボクが誰かを訊ねようとしたが、それよりも先に「入るぜ」とだけ外から声がしたかと思うと、勝手にドアが開けられた。
そして、中に入って来たのは何やらお盆を手にしたジェイクだった。
「……ジェイクか」
ボクの呟きに、ジェイクは舌打ちをしている。
「お袋がアンタにこれを持って行けってな。ここに置いておくぞ」
そう言って、机の空いた場所にお盆を置いた。
お茶とお茶菓子が乗っている。
エイダさんが気を使ってジェイクに持って来させたのか。
「ありがと。エイダさんにお礼言っておいてよ」
ジェイクは「おう」と答えたが、部屋から出て行かず……かと言って本を探すような真似もせず、ドアの前に突っ立っている。
何か用でもあるのかボクをジッと見ているし……「何?」と振り向くと、ジェイクは嫌そうな顔で部屋の本棚に視線を向けた。
「アンタ……アレだけ腕が立つのに本なんか読むんだな」
「知らないことがたくさんあるからね。ジェイクは読まないの? こんなに家に本があるのに……」
個人宅でこの蔵書量は前世でだって、よほどの趣味人で資産家でもなければ無理だろう。
娯楽の少ないこの世界でこんな環境に自由に出入り出来るだなんて、なんて羨ましい……って思うんだが……どうやらジェイクにとってはそうじゃないみたいだ。
ボクの言葉を鼻で笑うと、肩を竦めている。
「俺は剣で生きていくから必要ないんだよ」
そう言うと、ジェイクはドアに手を伸ばした。
「……そう。生きていけたらいいね」
少なくとも今のままだと、ちょっと強い獣や普通の魔物……戦い慣れた人間相手だったらまず負けると思うけれど……本人がこう言っているのならどうしようもない。
エリーゼ様に付き合って真面目に訓練はするみたいだし、そのうち魔力の強化を身に着けたらどうにかなるかもしれないしな。
もう彼は部屋を出て行っているし、今のボクの言葉が届いたかどうかはわからないが……まぁ、一応ウチの団員でもあるわけだし頑張って欲しいものだ。
◇
ジェイクが部屋を出て行ってから一時間か……もしかしたらもう少し時間が経ったかもしれないが、キリがいいところまで読めたし、今日はもう家に戻ることにした。
お盆を持って薄暗い廊下を今度は一人で引き返していると、前から誰かが歩いて来ていた。
「うん?」
誰だろうかなと足を止めて見ていると、同じくその人物も足を止めた。
「アリスか。もういいのか?」
「ジョンさん? ええ……キリの良いところまで読んだし、続きは明日にしようかと思って。何か用でしたか?」
ボクが近付いて行くと、ジョンはこちらを指して口を開いた。
「ジェイクに、ソレを持って行くついでに様子を見て来るようにと言ったが……碌な報告がなかったからな。何か話でもしたか?」
「読書は嫌いみたいだってことを言ってましたよ」
ボクの返答に、ジョンは「馬鹿が……」と大きな溜め息を吐いた。
読書嫌いとだけしか言っていないのに、口にしなかった他のことまでしっかり伝わってしまったようだ。
日頃から話してでもいたんだろうか?
まぁ……それなら。
「一応ボクのことを団長って呼んでますけど、彼らが勝手に入っただけですし、ボクはどうなっても責任持てませんからね?」
突き放すような言い方になってしまうが、ボクに彼らを鍛えるノウハウはないし仕方がない。
「……わかっている。ソレは預かろう。お前も遅くなる前に帰りなさい」
ジョンはボクからお盆を奪うと、そう言ってきた。
随分と気落ちした様子だが……これから家族会議にでもなるんだろうか?
用事も済んだことだし、巻き込まれないうちにさっさと退散するか。
ボクはジョンに「わかりました」とだけ答えると、足早に廊下を歩いて行った。




