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「こちらです。リリアナ様、アリスお嬢様をお連れしました」
母の部屋の前で使用人の彼女がドアをノックをすると、中からすぐに「入りなさい」と返って来た。
「お邪魔しまーす」
「よく来たわね。ご苦労様」
母はドアの前に立っていて、中に入って来たボクに労いの言葉をかけた。
そして、ここまで案内してくれた使用人にエリーゼ様を呼んでくるように指示を出した。
エリーゼ様の部屋は反対側だし距離があるんだが……。
「ボクたちが行った方が早くない?」
「ここの方が話には向いているのよ」
母はボクの疑問をスパッと切り捨てると、使用人に「お願いね」と言ってドアを閉めてしまった。
「そうなんだ……」
あっという間に部屋に二人だけになってしまい、どうしたものかと所在なさげに部屋の真ん中で立ちすくんでいると、母が「そこに座って頂戴」と部屋の壁に沿って並んでいる椅子を指した。
「はーい……」
とりあえず一番奥の椅子に座り、部屋の様子を眺めてみたんだが……なんて言ったらいいんだろうか。
「何か地味な部屋ですね? こっちの方が広いけれど街の方のお屋敷の部屋と似てるし……」
まず部屋に入ってすぐに目につくのは、ドアの正面にある仕事をするための机と、そのそばに置かれた本がぎっしり入った本棚だ。
そこからグルっと半回転してドアの方を見ると、お客さんを待たせるため用らしき、ボクが今座っている数脚の椅子。
……それくらいだろうか?
奥の方にドアがあるし、そちらが寝室なのかもしれないが、とにかく地味だ。
ジョンたちの部屋はおろか、下手したらボクがエリーゼ様たちに開放されていた、あの村の村長宅の部屋の方が見栄えがいいんじゃないだろうか。
「私は大体月の半分は向こうに行っているの。似たような部屋にした方が暮らしやすいのよ。そもそも、私室には人を通すことは滅多にないし、これで十分よ。……向こうでも言わなかったかしら?」
「どうだったかな……? まぁ、でも言いたいことはわかったよ」
ボク自身はあまり環境の変化は気にならないが、人によってはストレスを感じることもあるだろう。
母はどうかはわからないが、あまり変化をつけたくないようだし、もしかしたらそのタイプなのかもしれない。
「必要な物は揃えているし、私にとっては居心地のいい部屋よ。……貴女の部屋は見に行っていないけれど、どうなの? 必要な物は足りているのかしら?」
「ん? ……ええ。十分ですよ。強いて言うなら本とかは欲しいですけど、まだまだココに読んでいないのがたくさんありますしね」
珍しいことを聞いてくるから反応が遅れてしまったが、すぐに返した。
ボクはそもそもベッドでゆっくり眠れるだけでも十分なのに、風呂から食事まで付いているんだ。
文句なんてあるわけがない。
ハッキリ言い切ったボクを見て、母は「そう……」と呟くが。
「必要な物があるのなら、服でも何でも言いなさい。おじいさまや父は貴女に使う分の資金を用意しているわ」
「それはまた……わかりました。必要になったら言いますね」
必要な物と言われても、武具も仮面もあるし特に思いつかないが……それでも彼らがそう言ってくれるのなら、もし何か欲しい物が出来た時には遠慮なく甘えさせてもらおう。
◇
しばらく母と二人で大して意味のない会話を続けていたが、エリーゼ様が部屋にやって来たことでストップした。
……別に嫌だってわけじゃないが、ボクも母もお互いに話すことが思いつかないからか、どうでもいい内容になっていたからエリーゼ様の到着は実にありがたかった。
それにしても、十分以上は間違いなく経っていたし……この部屋の方が都合がいいのかもしれないが、やはりボクたちが彼女の部屋に移動した方が良かったんじゃないだろうか?
もし次の機会があれば、もう少し強く主張してみようかな?




