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「お嬢様……こんな時間に出かけられるんですか?」
腰に小剣を提げて二階から降りて来たボクを、使用人のおばさまがジト目で睨んでくる。
お風呂に夕食も済ませて、子供たちはもう寝室に向かっている。
ボクもいつもなら一階のホールで本を読んでいるか、二階の自室にいるかのどちらかで、外に出かけるようなことはない。
……このおばさまの様子だと、外に出るのは褒められた行為じゃないんだろうが、こんな何もない村で夜に出かけて何をするんだろうか?
よくよく思い返してみると、ボクは前世でも夜遊びなんてしたことがなかったから、夜遊びと言ってもどんなことをしているのかわからないが……村には街で見かけた酒場すらないし、前世どころか当世基準でも遊ぶ場所なんてないはずだ。
少し気にはなるが……ともあれ、不良娘だと誤解されないように簡単に説明はしておこうか。
「母に仕事の件で少し話があるから……って、屋敷に呼ばれているんです」
「あら? リリアナ様にですか?」
おばさまは珍しい……といった表情を浮かべた。
母は村に戻って来たばかりだが、以前ボクがこの村に来たばかりの時にはしばらく一緒にいた。
だが、その時も母とはボクはほとんど関わらなかったし、屋敷に呼ばれることもまずなかったから、不思議に思っても仕方がない。
彼女にも外の件は話していないから、詳しいことは伝えられないが、まぁ……ここは母の名前で納得してもらおう。
「それじゃあ行って来ますね。時間はかからないと思います」
「わかりました。私はアリスお嬢様が戻って来るまでこちらに控えておきますから、ごゆっくりどうぞ」
おばさまは呆れ顔になりつつもそう言うと、玄関のドアを開けてボクを送り出した。
◇
裏口から屋敷に入ったボクは、手近な使用人を捕まえると母の部屋まで案内してもらっていたんだが。
「……団長? アンタこんな時間に何か用なのか?」
二階に上がる階段の前でジェイクとばったり出くわした。
ここは彼の家でもあるわけだから、別に彼がいること自体はなにもおかしいことじゃないんだが……酒瓶みたいな物を持っているし、どう見てもこれから出かけるような恰好をしている。
……ジェイク一派が夜遊びをする連中だったのかな?
おばさまも渋い顔をするわけだ。
「団長?」
ボクが返事をしないことを不思議に思ったのか、もう一度聞き返してきたが……どうやら仮面のお陰でボクが呆れ顔をしていることには気付いていないようだ。
便利だな……仮面。
ともあれ、ボクが「母に呼ばれたんだよ」と答えると、意外だったのか目を丸くする。
「……リリアナさんにか? 珍しいこともあるもんだな」
それで興味が無くなったのか、ジェイクは「じゃあな」と言って玄関の方に歩いて行った。
「……よくあることなんですか?」
ジェイクの姿が見えなくなったのを待ってから使用人に訊ねると、彼女は「最近は減っていたんですけど……」と困ったような表情で答えてくれた。
最近……というと、ボクが来た頃くらいだろうか?
首切ってへこませたし、心を入れ替えて真面目にやっていたけれど……また少しずつ気が緩んできたのかな?
「まぁ……仕事はちゃんとしてますしね。ボクが何か言うことじゃないでしょう」
ちゃんと毎朝の訓練も参加しているし、村や農場の警備だって欠かさないで行っている。
ジョンへの直談判といい群狼戦士団の仕事……というにはなんか違う気もするが、真面目に仕事をしているし、考えていることも確かだ。
もしかしたら、使用人はボクに何か期待をしていたのかもしれないが、仕事に支障がないのならボクが口をはさむ問題ではないし、ジョンに任せていいだろう。
「行きましょう」
そう言うと、どこかガッカリしたような表情の使用人は「わかりました……」と階段を上って行った。




