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部屋での夕食を終えたボクは、先程部屋を出る前に行っていた魔法の訓練の続きにとりかかっていた。
指先や手の平の上に魔力を集めると、集中することで光を灯して……あちらこちらにポンポンと撃ち出していく。
壁や天井や床やベッドの柱……いたるところにボクが放った照明が灯っていて、室内は昼間とさほど変わらないくらいの明るさだ。
まだこの一種類しか身に着けていないから、魔法そのものをマスターした……だなんて言えはしないが、それでも魔力や魔法の扱い方のコツは掴めた気がする。
手元や自分の体に発動させるのは気合でどうにでも出来るんだが、効果を維持したまま体から離れさせるにはより強固なイメージが必要みたいだ。
この世界の魔導士たちがどんな訓練をしているのかはわからないが、前世の便利なものに囲まれた暮らしを知っていることは大きなアドバンテージだと思う。
今はまだ家電の電源コードくらいしか活かせていないが、もっと試行錯誤を繰り返していけば、色々な応用の仕方を思いつくかもしれないし……しばらくは忙しくなるだろうな。
村に帰ってからの訓練方法について色々考えを巡らせながら、指先から浮かせていた光球をあちらこちらに放っていたが。
「うん?」
ドアをノックする小さな音に、考えごとを中断させられた。
ドアの前にいるかはわからないが、廊下には使用人が控えているし誰でもここに来れるってわけではない。
それでも来ているってことはこの屋敷の人間なんだろうが……思い当たらないな。
「誰だろう……こんな時間に。どうぞ?」
ともあれ、無視するわけにもいかないし部屋に入るように声をかけると、ドアがゆっくり開かれていく。
そして。
「あら?」
姿を見せたのは、何かファイルらしき物を手にした母だった。
先程会った時は一緒だった使用人もいないし、彼女一人でここにやって来たらしい。
「……どうかしたんですか?」
母はなぜか目を丸くしたままドアの前で突っ立っているが、何の用事だろうか?
先程話はしたし、もうボクに用事なんてなさそうなんだが……。
とりあえず中に入ってもらおうと、母の前まで行くともう一度「どうしたの?」と訊ねた。
それでようやく我に返ったのか、母は「お邪魔するわ」と言って中に入って来る。
そして、「コレを」と言って彼女が手にしていたファイルを差し出した。
「ラカンパの七家についての簡単な資料と、先程の会議室にいた方たちの情報を纏めた資料よ」
「……おぉ。一人誰かわからない人もいたけど、分かったんですか?」
「ええ。騎士団の監査役だそうよ。現場に出て来る者だったら私も顔を知っているけれど……彼は裏方で表に出てくることは滅多にないそうなの。話が拗れた際に、騎士団の立場から意見を述べるために兄が連れて来たけれど……その必要はなかったみたいね」
「そうだったんですね」
皆の立場を考えても中々簡単に譲れるようなことじゃない気もするんだが……皆物分かりがいいというか、大人なんだな。
さて、話を聞いて感心しているボクをよそに、母は何やら部屋の中が気になるようで、あちらこちらに視線を這わせている。
「どうかしましたか?」
先程から同じことを聞いてばかりだな……って気もするが、母の様子が変なんだから仕方がない。
当の母は、ボクの質問を無視してしばらく部屋の中を見ていたが、ようやく満足したのかこちらを見た。
「……アレは貴女がやっているのよね?」
「アレって……魔法の明かりですか?」
「ええ。入門書に書いてあったし、ちょっと試してみました。あぁ、知ってるかもしれませんけど、アレは熱は持ってないから燃えたりしませんよ」
「それはわかっているわ。……よく出来たわね。魔法自体は初歩なものでも、手から放すのは簡単ではないはずだけれど……」
母は部屋中の明かりを見て、感心しているんだか呆れているんだかわからない声を出した。




