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アリスたちが下がってしばらくすると、また部屋のドアを叩く音が響いた。
ジャックが「入りなさい」と答えると、バンッと音を立てながら乱暴に開けられた。
「来たか? 頭は冷えたのか?」
「外で散々やり合ったようだな。気を付けねば、そこに中隊長殿が控えているぞ?」
部屋の中に入って来た二人の男に向かって、揶揄うような声が飛んで来るが、二人はそれに取り合わず中を見回した。
「……マーク先生は外しているのか?」
「我々を集めたのは先生だし、屋敷にはいるのだろう?」
「叔父上は今は別の客の対応をしています。ともあれ、二人もかけて下さい」
ドアの前から動こうとしない二人に、ジャックが空いた席を示した。
二人の事情は既に報告を受けているため、しっかりと席を離している。
それを見た二人は面白くなさそうに鼻を慣らすが、皆の視線を受けて渋々移動した。
「話はどこまで進んだんだ?」
「我々が着いた時点でもう集まっていたんだろう?」
席に着いた二人が争っていたにもかかわらず、口を揃えてジャックに訊ねると、彼は溜め息交じりに答える。
「まだですよ。皆が揃ってからではないと何の意味もないでしょう……」
「それならもう始めるのか?」
「叔父上が来られてからです。皆さんはここで待機してもらいますよ。当然、お二人もです」
ジャックが順に二人を睨みつけると、面白くなさそうに小さく舌打ちをする。
「ふん……」
「言われるまでもない。……だが、全くの無言だったわけでもないだろう?」
「定例会で顔を合わせているし大したことは話していないよ。強いて挙げるとしたら……群狼戦士団の新団長についてか?」
「アリス団長か。エリーゼ様の件は聞いていたが、実際に腕が立つことは今日で証明されたな。グレイ団長とリリアナ殿の娘ならそう猛々しい容貌には生まれないだろうが……どうした?」
一日で二度も魔物の群れと戦った娘とはどんな姿なのだろうかと口にするが、皆が妙な物を見るような視線を向けていることに気付いた。
「お二人はもう孫に会ったでしょう? 先程リリアナが面倒を避けるために、わざわざ顔見せのためにアリスをここに連れて来たのですよ?」
「「っ!?」」
ジャックの言葉に、二人は離れて座っていてもわかるほど同じように驚いている。
「部屋で休んでいるところを、君たちが騒いでいるからわざわざ止めに入ったと言っていたぞ? それなのに当の二人は全く意に介さなかったとは……」
「これは順番を後回しにしてもいいかもしれませんな」
非難めいた内容ではあるものの、口調から揶揄う意図であることはよく聞けばわかるんだが、肝心の二人はそれどころではないらしい。
「待てっ!? 暗くて姿がよく見えなかったんだ!」
「止めに入った者が小柄な娘であることはわかったが、周りの者が邪魔をしていたのだ!」
慌てて釈明の言葉を口にし始めた。
その慌てぶりがおかしいのか、部屋にいた者たちは笑いながら「わかっている」と宥めていると、ノックもなくドアが開いた。
「若者でもあるまいし、いい年した男たちが何を騒いでいる。廊下まで聞こえているぞ?」
ビーンズ家現当主のマークが、小言を口にしながら中へ入って来た。
そして、席の並びを見ると首を傾げる。
「ジャック、この並びは?」
「ああ……それは」
事情を聞いたマークは深い溜め息を吐くと、「馬鹿者どもが……」と呟き揉めていた二人を自分の前に呼んだ。
すぐに足早にやってきた二人に、順に頭を叩いていく。
「ここで貴様らが争っても意味がないだろう。全く……アリスの機嫌は損ねていなかったか?」
「ええ。もっとも、見知らぬ男たちの前で挨拶をさせられたことをどう感じているかはわかりませんが……」
「後でリリアナに機嫌の取り方を聞いておけ」
二人は揃って「申し訳ありません、先生」と頭を下げた。




