125
一階に下りると、まずは母と使用人が二人がかりでボクの服の皺を直していった。
ついでに、髪も乱れていたようなのでそちらも軽く整えていく。
使用人はともかく母もこういったことには慣れているのか随分と手際がよく、あっという間に元通りだ。
身だしなみも整えたところで、改めてお偉いさんたちが通されている会議用の部屋へと向かった。
一階にはこういった会議用の部屋がいくつかあって、その中の一番大きい部屋に集まっているらしい。
もっとも、母はそちらに参加するつもりはなかったようで使用人から聞いただけなんだとか。
だから、母もどんな風に話をするのかなどは知らないらしい。。
「あら?」
「うん? あの人たちは……?」
その大きい会議室は廊下を曲がった先にあるそうなんだが……廊下に何人もの男性が待機していた。
ボクと母はそれを見て、揃って足を止めた。
皆似たような……所謂執事風の恰好をしているが、この屋敷の人間ではなさそうだ。
……会議室にいるお偉いさんと一緒に来た人たちかな?
「これはリリアナ様。お邪魔しております」
手前の一人が一歩前に出てそういうと、母に向かって頭を下げる。
それに倣って、他の者も礼をするが……この人数が一斉に頭を上げるのは中々壮観だ。
「ぉぉ……」と驚くボクに対して、母はこういったことに慣れているのか全く動じることなく、使用人たちに話しかける。
「貴方たちは中には入らないのかしら?」
「はっ。内密の話をするため、外で待機するようにとジャック会頭から」
「そう……まあ、いいわ。行きましょうアリス。貴女はここで待っていなさい」
母は自分について来た使用人にここで待つように指示すると、そのまま廊下を進んで行き部屋のドアをノックした。
◇
部屋の中に入ると、大きな長机がいくつも置かれていた。
その一つに祖父と見知らぬ六人の男が座っている。
さらに、部屋の隅にはリチャードが控えていた。
「む? ……君も来たのか?」
母に続いて部屋に入って来たボクに気付いた祖父が、「孫だ」と部屋の男たちに紹介した。
……もうそれでいいんじゃないかなと思うが、駄目なんだろうな。
一斉に集まる視線を避けるために母の背後に身を隠すと、母がこれ見よがしに大きな溜め息を吐いた。
「私が連れてきました。玄関前で少し騒動がありましたが、聞いていますか?」
祖父と伯父が揃って首を横に振る。
「……想像は付くが報告はこちらには来ていないな。教えてもらえるか?」
祖父がそう言うと、母が簡単に説明する。
説明が終わると、祖父たちだけじゃなくて席についている男たちも眉をしかめている。
「イレギュラーではありますが、アリスはその二人とはもう顔を合わせています。それならここの皆様方にも挨拶をさせておくべきでしょう? アリス、挨拶をなさい」
母はこちらを振り向くと、背中に手を当てて前に押し出していく。
「うっ……はい」
集まる視線に怯みつつも、ボクは顔を上げて前を向いた。
「アリスです。群狼戦士団の団長をやってます」
「…………」
続きを待っているのか、皆黙ってボクを見ているが……これ以上何もない。
振り返って母に「どうにかして!」と目で訴えると、先程よりもさらに大きな溜め息を吐いた。
「領主も代官のゴードン様も認めています。皆様も構いませんね?」
母の言葉に、部屋の男たちは一瞬呆気にとられたような表情を見せたが、すぐに頷いた。
「あ……ああ。腕に関しては少々懐疑的ではあったが、今回の件でそれも問題ないと分かったからな」
「うむ。あまり社交的ではないようだが……連絡の取りにくさという意味では先代とも大差はない。窓口はビーンズ家でいいのだろう?」
「ええ。それで構いません。それではお父様、私たちはコレで失礼しますわ」
ここに来たのは本当に挨拶のためだけだったらしい。
そう言い放つと、母はボクを伴って部屋を後にした。




