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「卿の家は農場を持っておらぬだろう! それなら私に優先権があるはずだ!」
「確かに農場は持っておらぬ。だが、郊外に大型の倉庫をいくつも抱え込んでいる。食料品に薬品……街の運営には不可欠だ。そう思わぬか!?」
玄関前で大人の男二人が言い争っていた。
その二人を取り囲むように数人が集まっている。
ボクの部屋は一番端で玄関から距離があるため、どんな人たちなのかまではわからないが……背恰好から警備員はいないみたいだ。
「屋敷の人も出て来てるみたいだけど、手を出しあぐねているね……」
どちらも身分のある者らしく従者もいるようで、その従者がそれぞれ羽交い絞めにしているから殴り合いにこそ発展していないが……最初に声がした時からヒートアップしている。
このままじゃ従者を振り払ってしまいそうだな。
「何が理由でああなっているのかはわからないけれど……誰かが止めないと……」
身を乗り出して様子を窺っていると……。
「我が家は群狼に出資をしていた。今回アレを獲ったのは群狼の者だろう? それなら優先権がある。違うか!」
もう既にどっちがどっちかわからなくなっているが、男の一人がもう一人に対して強く言い放った。
「……」
ボクはその言葉を聞いて無言で窓を閉めた。
「……ボクが持って来た素材の件みたいだね。魔物除けが足りてないみたいだし、取り合いになっちゃったのかな?」
魔物や魔獣……そして獣と、それらの被害に備えて魔物除けの薬を手に入れたいんだろうってことは、なんとなくわかった。
三頭分の素材でどれだけ作れるのかはわからないが、流石に需要全てを賄うのは無理だろう。
もちろん正規の入手ルートだってあるんだし、そこから購入することも出来るはずだが、本来この辺りは群狼戦士団が番犬替わりを務めていたため、数がそこまで揃っていないらしい。
必要な者の手に渡り切るまでは時間がかかるのは、祖父や母たちの話からもわかっている。
「どっちがどっちかはわからなかったけど、農場と郊外の倉庫ね。どっちも魔物や獣に襲われると困ったことになるよね……。でも、その前に……」
窓を閉めたのに男たちの言い争う声がはっきり聞こえてくる。
あれからさらにヒートアップしたようで、殴り合いでも起きそうなのか周りの者が必死で止める声も聞こえてくる。
「ボクや群狼戦士団にも少しは関係していることだしね……」
せめて争う声が聞こえてこなければ無視出来たんだが、ここまではっきり聞こえてくるとそうはいかない。
小さく溜め息を吐くと、口元にスカーフを巻いて閉めた窓に再び手を伸ばした。
◇
「そもそもだ! 私は以前からグレイ卿と懇意にしており、だからこそ物資を別口で団に送り届けていたんだ。そちらはどうか!」
「ぐぬっ……!!」
どうやら向こうの口論はこのまま決着がつきそうだけれど、お次は殴り合いで第二ラウンドが始まってしまいそうだ。
一先ず。
「ふっ!」
両足に魔力を込めると、窓の縁から思い切りジャンプする。
壁スレスレを高速で飛んで行くが……一度のジャンプじゃまだ玄関前までは届かない。
だから。
「よいしょっ!」
数部屋分を飛び越した先の窓の縁に手をかけると、そのまま体を持ち上げて両足を着地させると、すかさずまたジャンプだ。
玄関前の二人は、自分たちを抑えていた者を振り払っていよいよ掴み合っていた。
アレはマズいね。
とにかく止めないと……!
「はっ!」
先程身に着けたばかりの照明の魔法を右手に生み出すと、彼らの足元目がけて撃ちだした。
ただただ「高速で飛んで行け!」とだけ念じて撃ちだしただけあって、帯のような光跡を残して飛んで行き。
「うおっ!?」
「何だっ!?」
彼らの足元に着弾するなり破裂して周囲に光をばら撒いた。
それに驚いた彼らは掴み合っている手を離すと、その場から数歩後ずさっていく。




