121
ボクがランプの説明に満足したところで、使用人の彼女は夕食について訊ねて来た。
「リリアナ様からはアリスお嬢様はお部屋で召し上がると伺いましたが……どうされますか?」
「あー……それでお願いします」
それ以外を選んだ時はどこで食べるのかはわからないが……知らない人と一緒に食べるってのはちょっと落ち着かないんだ。
ボクは前世でも一人の食事も全然苦にならないタイプだし、むしろ助かるくらいだ。
何だかんだでこれまでずっと誰かと一緒だったが……久しぶりに一人で羽を伸ばすのも悪くない。
行儀悪いが食事しながら本……は汚したらいけないし、メモでも読もうかな?
あるいは魔法の練習でも……っと。
部屋を出た使用人が閉めたドアを見つめていると、ふと視界の隅にランプの光が映った。
「そういえば照明の魔法をどうするかって悩んでいたんだっけね」
使用人がやって来て中断された上に、あのランプの機能や構造に気を取られて忘れてしまっていたが、どうにかして照明の魔法を自分の手から放して維持出来ないかと考えていたんだ。
「普通のライトのイメージだと上手くいかなかったけど、折角だしもう少し頑張ってみようかな? ちょっと新しいアイディアも浮かんだしね」
ボクはドアの前から離れて、再び部屋の真ん中にやって来た。
「さっきは込める魔力の量とかは色々変えていたけれど……結局はただの光球に過ぎなかったんだよね。もっとちゃんとイメージの段階で変えるべきだったね」
二度三度深呼吸をしてから、ボクは両腕を前に伸ばして手の平を上に向ける。
今更そこまでかしこまらなくても、明かりの魔法なら発動出来る自信はあるが、基本は大事だ。
そして、そのまま両手の間に魔力を溜めていく。
その溜まっていく魔力を受け止めるように手の平を傾けて行き……魔法を発動した。
ここまでは一緒なんだが……根本的なイメージを変えている。
先程までと同じただの光球じゃなくて、ちゃんと魔力を溜めるバッテリーを光球の中にイメージした。
さらに、魔力の量も少々増やしている。
そのためなのか、心なしか光球の輪郭がよりはっきりしているようだ。
「これならどうかな?」
ボクはそっと光球を天井に向かって放り投げた。
「……お? 上手くいったかな?」
天井に触れた光球は、少し潰れたように形を変形させたがそのまま天井に張り付いている。
ランプは壁に掛けられているたため、どうしても一番離れた場所になる部屋の中央は他より暗くなっていたんだが、天井の光球のおかげでむしろ一番明るいくらいだ。
コレが正解なのかはわからないが、とりあえず照明の魔法を手元から離した状態で維持することには成功したみたいだ。
それなら。
「ほっ!」
今度はサイズを一回り小さくした光球を生み出すと、テーブルの上に乗せた。
これも上手くいった。
高さが足りないのでテーブル全体……とはいかなかったが、それでもこれでメモを取るのに暗くて見づらい……なんてことはないだろう。
天井とテーブル。
どちらも込めた魔力は同じだしどれくらい持つかの検証にもなる。
とりあえずこのまま放置して、続きに取り掛かろうか。
ボクは椅子に座ると、入門書を開いてペンに手を伸ばした。
◇
照明の魔法の応用をマスターしてからしばらく経って、そろそろメモ用紙の書けるスペースもなくなってきた。
ここらで終わりにするか、それとも新しい紙を貰いに行くかで迷っていると。
「……うん?」
屋敷の外……玄関あたりだろうか?
何か争うような声が聞こえる気がする。
馬車の音や訪問を告げる声が先程から何度もしていたから、屋敷に客が来ていることは気付いていたが……一体何があったんだろうか?
「今のところケンカとまではいかないみたいだけど……穏やかじゃないね?」
ボクは席を立つと、外の様子を窺うために窓に向かった。




