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母との話が終わってから自分の部屋に戻ってしばらく経った頃、部屋のドアがノックされた。
「はーい? どうぞー」
そちらに向かってそう言うと、ドアが開いて「失礼します」と使用人が中に入って来た。
大きな籠を持っているし、ボクに何かを届けに来たんだろう。
まぁ……中身の予想は付く。
「リリアナ様から頼まれた物をお持ちしました」
使用人が机の上に籠から取り出した三冊の本を並べていく。
三冊とも革の表紙でサイズは図鑑ほどもある。
赤い表紙が一冊で、残りの二冊は茶色い表紙だ。
特に題名は記されていないが……表紙の色で分類しているんだろう。
「こちらが初級魔法の入門書で、こちらの二冊が魔道具の製作と整備書です。それとこちらは書庫の管理者からの伝言です」
使用人が、なにやら色々書きこまれた、二つ折りの便箋を手渡してきた。
ボクは「ありがとうございます」と言ってそれを受け取ると、彼女はホッとしたように一息ついて部屋から出ていった。
ドアが閉まったのを確認すると、椅子に座り紙を開く。
「さて……何が書かれているのかな?」
本も気になるが、まずはこちらからだろう。
「どれどれ……?」
◇
伝言は本の内容に加えて、本の取り扱い方……要は注意文だった。
貴重な物だから汚すな傷めるな。
もしメモを取りたいのなら、本に書き込まずに別紙に書け……と、メモ用の紙も何枚か用意されていた。
……前例でもあるんだろうか?
ペンも用意しなければいけないが、必要になったら使わせてもらおう。
ともあれ、母曰く夜には来客の予定が入っているようだし、そちらには関わらずに、部屋で大人しくこの三冊を読んで過ごしておこう。
「まずは魔法の方からにしようかね……」
ボクも多少は魔力を扱えるし、こちらの方が必要度も可能性も高いはずだ。
赤い表紙の本を手に取って、ページをめくっていく。
どうやら本当に入門書のようで、専門的な内容はほとんど書かれていない。
それでも魔法の発動の仕方やその仕組みについて簡単にだが説明されていた。
この世界には、生物の体内や大気中に魔力が存在する。
その魔力に属性や効果を付与して外に放つのが魔法らしい。
ちなみに、身体強化や魔力をただ単にぶっ放すのは魔法には分類されなかった。
魔力に何かしら付与して外に放つのが魔法と定義づけられているみたいだ。
魔力を扱うこと、魔力に何かを付与すること、魔力を外に向かって撃ちだすこと……それらの素質や感覚を身に着ける必要があると書かれている。
そもそも十分な魔力を持っていないと、それらを身に着けるための訓練すら出来ないため、まずは魔力を増やす訓練を行うそうなんだが、大人になってからだと成長はいまいちらしい。
若ければ若いほどいいとあるし、魔力の量や操作に関してはボクは問題ないんだが……属性や効果を付与するってのはどうなんだろう。
十四歳ってのは間に合う年齢なんだろうかと、少々不安になる。
ただ……入門書だからか記されていないが、ボクが使っている回復魔法も回復効果を付与されているし、ちゃんと魔法の範囲なんだろう。
方向性というか……魔力を扱う感覚自体はそこまでズレていないみたいだし、とりあえずこれからの日課にしていこうと思う。
そして、より効率的に魔法を発動するために、発動するための媒体って物を使うらしい。
杖や指輪が一般的とある。
エリーゼ様も指輪がどうの……とか言っていたのを思い出した。
この入門書には詳しく書かれていないが、材質によって性能が大きく変わってくるそうだ。
ボクが今日身に着けていたあの小剣。
あれもまさにその媒体で性能もかなり良さそうだし、これからはアレを日常的に身に着けておこうと決めた。
「よし!」
ボクは入門書を閉じると、椅子から立ち上がり壁に立てかけた小剣を取りに向かった。




