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母が出て行ってからしばらく部屋で大人しくしていたが……誰かが部屋を訪問する様子もないし、退屈したボクは再び祖父の部屋に向かうことにした。
もう既に一度行った場所だし、廊下で待機していた使用人の案内は断った。
もしかしたら今はなくても部屋に来客があるかもしれないし、お留守番を任せておこう。
「おや?」
来客用のエリアを抜けて玄関ホールがあるエリアに出たんだが、階段を上がってくる母の姿が目に入った。
母もボクに気付いたようで、こちらを見ている。
「貴女……部屋にいなさいと言ったつもりだけど、こちらに何か用でもあるの?」
何故ここにいるのかと首を傾げているが……。
「……待ってたけど誰も来ませんでしたからね。ジョンさんのところに少し話を……」
母の言葉に「人を寄こすと言ったのに誰も来ていない……」と言い返すと、小さく溜め息を吐いた。
「父は今訪問客の対応をしているわ。話なら私が聞いてあげるから部屋に来なさい」
そう言うと、ボクの返事を待たずにビーンズ家のエリアに向かって歩いて行った。
◇
母の後をついて行き、そのまま彼女の部屋の中に通された。
「そこに座りなさい」
「……うん」
「何か飲むかしら?」
「いえ……さっき外で飲んで来たから……」
ボクは母が指した椅子に座ると、軽く部屋の中を見回して間取りや雰囲気の確認をする。
広い部屋ではあるが三分の一ほどが衝立で仕切られている。
衝立で奥の様子はわからないが、一段高くなっていて靴を脱げるようになっているし向こうが就寝エリアなんだろう。
それを除くと……ボクが今座っている椅子とテーブルのセットの他には、壁際に小さい棚と本棚があるだけだ。
お次は足元だ。
床は絨毯が敷かれているが、歩いた感じ厚みは感じなかった。
色は違うが屋敷の廊下に敷かれているのと同じような物だろう。
贅沢品ではないね。
壁には何も飾られていないし……お客さんを通すことは考えていないようなシンプルな部屋だ。
村の方の屋敷にも母の部屋はあるはずだが、そちらも同じような部屋なんだろうか?
「どうかしたの? 面白い物は何もないわよ?」
「……本当に。何もないですね」
室内をキョロキョロしているボクが気になったのか、向かいに座った母が口を開いた。
「仕事を済ませる部屋は別にあるし、そもそも屋敷にはほとんどいないから飾る必要はないでしょう? ……貴女は村の部屋はどうしているのかしら?」
「自分の部屋ってわけじゃないし物は置いてませんよ。隣の部屋に物置代わりに武具を置いてますけど……」
あの部屋は基本的に、寝起きと睡眠前の魔力操作の訓練にしか使っていないし、今のところ何もなくても困ることはない。
ボクの言葉に、母は「そう……」と呆れたような表情を浮かべた。
「身だしなみは屋敷の使用人に任せてもいいけれど、服くらいは揃えておきなさい。……それで、お父様に何の用事だったの? 武器の手入れも済ませたし、特に思い当ることはないけれど?」
「用事っていうよりは相談なんだけれど、魔法とか魔道具の勉強に使える本が欲しいんです。探せばこの街でも買えるみたいなんですけど、ジャックさんに相談したら良い物が手に入れられるんじゃないかな……って思って」
「入門書でいいのかしら? ……確かここの書庫にも何冊かあったわね。貴重品だし外に持ち出すことは出来ないけれど、部屋で読んでも構わないわよ?」
それなりに値が張る代物らしいし、買えるだけのお金は持っているつもりだが、事前にお試しで読めるのならそっちの方がいい。
ボクの表情で考えが伝わったらしい。
「今お父様が相手をしているのは、外での貴女の話を聞いた者よ。他にも来ると思うけれど……会う気はないでしょう?」
ボクが「出来れば」と答えると、母は黙って頷いた。
「後で部屋に届けさせるから、今日はもう部屋で大人しくしておきなさい」




