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お姉さんや周りの客、そして年配の店員の話や彼らを見ていて、この店がどんな役割を持っているのかがわかってきた。
各家が色々な形で出資しているみたいだし、もしかしたら監視も兼ねている場所なのかもしれないが、事情を知っていそうな先程の店員も何も言わなければ、祖父もここへ案内されることをわかっていたみたいだし、後ろ暗いことはなさそうだ。
昼で仕事が終わったのか、先程から店に入ってくる客の数も増えて来ている。
ラカンパの街のお偉いさんの下で働く使用人たちの休憩所兼情報交換所……サロンみたいなものかな。
このひと月の間村から出てこなかったから、この辺りの事情はよくわからないままだったが、この雰囲気から察するに、ラカンパの街を実質的に治めている元村長一族たちの仲は悪くないってことなんだろう。
いくら何でも、それをボクに伝えたかったってわけじゃなかっただろうが、ボクが関わることになりそうな箇所の雰囲気は掴めた気がする。
店内の様子を眺めながらそんなことを考えていると、勢いよく店のドアが開かれた。
またお客さんなんだろうが、随分と勢いがある来店の仕方だな……とそちらに顔を向けると、誰かを探しているのか男が店内を見回している。
その男を知っているのか、お姉さんが「あら?」と呟いた。
「シェリル、ここにいたか!」
どうやら探していたのはボクたちだったらしく、お姉さんの名を口にすると駆け寄って来た。
そして、周りを憚るように口元に手を当てると、小声で話し始めた。
「アリス様……お寛ぎ中に申し訳ありません。リリアナ様が戻られました。アリス様に話があると……」
「リリアナ様が? 確か代官の屋敷に詰めていてお戻りは夜になるとか聞いたけれど……」
「優先して屋敷で片付ける要件があるからと、いくつかの仕事を後回しにしたらしい。よろしいでしょうか?」
彼の言葉に、ボクは「ふむ」と考える。
ボクの目的の一つである武器の手入れは完了したし、その武器の手入れだって、そもそも屋敷に籠ってもやることがなかったからってのが切欠だったんだ。
母との話……ってのは少々緊張するイベントではあるが、屋敷に用事が出来たのなら戻ることに反対する理由はない。
まぁ……街をもう少し見てみたいという気持ちはあるが、それはまたの機会にしたらいいだろう。
「わかりました。戻ります」
ボクが席を立つと、お姉さんも一緒に立ち上がった。
「あれ? お姉さんも一緒に来るんですか? 残ってもらって構わないですけど……」
「ジャック様から案内を頼まれたんだし、最後まで付き合うわ」
そう言って笑うと、店内の客たちに挨拶をしながらカウンターに歩いて行った。
何となく屋敷で案内をしてくれていたから、そのまま一緒にいるけれど……随分と顔が広い人だ。
歳は二十歳そこそこ辺りだと思うが、祖父からボクの案内を任されるし、工房やここでの振舞いを考えると……もしかして結構な地位の人なんだろうか?
身内が商会で働いているとか言っていたけど……。
お姉さんを見ながらそんなことを考えていた。
◇
工房に向かった時は街の案内も兼ねてのんびり歩いていたが、帰りは急ぎ足だ。
お姉さんは所謂メイド服を着ているし、あまり走るのには向いていない恰好をしているため、中々大変そうだ。
「あの……走ってもらって構いませんよ?」
「いえっ! そういうわけには……っ!」
どうにもボクに遠慮しているようだ。
ボクも恰好だけなら走るのには向いていないんだが、その気になれば魔力で強化出来るしどうとでもなる。
もう一人の使用人も一緒だし、彼女が一人きりになるわけじゃないからボクだけ先行して戻ってもいいんだが……彼女たちの立場を考えるとそういうわけにはいかなことはわかる。
だから、ボクも一緒に歩調を合わせているんだが……。
スカートの裾を持って息を切らしている彼女を見ると、少々申し訳なく思えて来た。




