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店員の相手も周りの客の相手も全部お姉さんに任せていると、店員が飲み物と小さなケーキをボクたちのテーブルに置いて行った。
飲み物が入ったカップにはたっぷりのクリームが乗せられていて、ケーキにもやはりたっぷりクリームが乗っている。
ちなみに注文もお姉さんが「いつものを二人分」で終わらせていて、これの詳細も値段も知らないが……少なくとも手が込んでいる物なのは間違いない。
……というよりも、予想以上にしっかりした店のようだ。
村では使用人のおばちゃんがたまに焼き菓子などを出してくれることもあるが、中に入っているのはドライフルーツやナッツ類で、クリームとかが出てきたことはない。
ボクがジッと見ていると、お姉さんが「美味しいわよ」と食べるように勧めてきた。
スカーフを外して膝の上に置くと、一緒に用意されたフォークを手にした。
「……美味しい」
見た目もだが、思った以上に味もしっかりとしている。
特別甘い物が好き……なんてことはなかったが、久しぶり過ぎて目を丸くしていると、お姉さんがクスクスと笑っていた。
「スカーフを外したところを見るのは初めてだけれど……こうやって見たらリリアナ様によく似ているわね」
「そうですか?」
母の顔はついひと月前に見たのがほとんど初めてだったし、それ以来顔を合わせていないから、似ているかどうかの判断が出来るほど覚えていない。
そもそも、ボクは自分の顔もあまり見ないで生きているしな。
髪の色とかで父に似ているとは言われるが……母はどうなんだろう?
お姉さんの言葉に首を傾げると、お姉さんは「ええ」と頷いて自分も食べ始めた。
「美味しいわよね。ここに出ている物は表通りに並んでいる店と同じ物なのよ」
「へぇ……お高いんですか?」
ここに来るまでの道中でチラッと見たが、お洒落なお店が多かったし客層も裕福な者たちが多かった気がする。
この街の相場……そもそもボクはこの世界の貨幣価値や物価も未だにほとんど知らないが、それでも決して安い物ではないことはわかる。
先程の彼女たちの会話ではよく足を運んでいるようだが、屋敷の使用人ってのはそんなに高給取りなんだろうか?
思わずそう訊ねると、お姉さんや……ボクたちのことが気になっていたのか、話に耳を傾けていたらしい周りの客たちも笑っている。
「私たちは特別ね。表の店だと私たちじゃとても手が出ない価格なのよ」
お姉さんはそう言うと、クリームをフォークで軽く掬った。
「例えば、これに使われる素材はビーンズ家の農場から仕入れているし、調理法や調理するための器具や料理人は他の家の技術や伝手を使っているの」
そう言って、お姉さんや周りの客がいくつもの家の名前を挙げていく。
このラカンパの街は元々周辺の農村を合併して作った街だ。
代官はグラス家が務めているが、ビーンズ家のように各村の元村長一族も未だに強い影響力を持っている。
全部は知らないが、その挙げられた名前はその元村長一族たちだ。
「私もだけど、ここに来る者は基本的に皆そこで働いているわ」
「そんで、この店は代官のグラス男爵家の事業の一環なんだ」
「表の店もそうだぜ」
彼らはそう言うと、自分はどこの家で働いているかを教えてくれる。
「へぇ……」
元村長一族の下で働く者たちへの福利厚生みたいなものなのかな?
そこに、年配の店の人も加わって来た。
「十年程前に他国から伝わって来た調理法なのですよ。調理の仕方も保存の仕方も特殊で簡単には出来ないため、どうしても一日で使いきる必要があるんです。それなら、作る量を絞るよりも、いっそこうやって自分たちに関係する者たちに格安で提供した方がいいんじゃないか……と、マーク様が提案してくださったんです。ありがたいことです」
そう言って彼はまた戻って行ったが……彼はボクが誰かわかっているのか、その際に一礼していた。




