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お姉さんが案内してくれたのは商業区にあるちょっとしたカフェだった。
この世界の文化レベルは未だによく把握していないが、商業区には商店だけじゃなくてカフェを始めとした飲食店もしっかり出店していた。
特に表通りにはオシャレなお店が多かった。
お姉さん曰く、昼頃には街のご婦人方がよくそこでお茶をしているそうだ。
だが、ボクが連れていかれたのは表通りではなくて、表通りから一本奥に入った裏路地にあるカフェだった。
もっとも、わざわざ外でお茶を飲もうとするくらいだし、多少は懐に余裕がある者たちなのか、女二人で歩いていても絡んでくるような者はいない。
……槍と剣を持つ怪しい女だからってわけじゃない。
この通りは表通りに比べると使用人の恰好をした者が多く歩いている。
どうやらお偉いさんのお屋敷で働く者がメインの客らしく、お姉さんとも顔見知りの者が多いんだろう。
お目当ての店に着くまでにも、親しげに挨拶を交わしていた。
そして、店に入ったら入ったで中にも顔見知りがいるようで、あちらこちらから声が飛んでくる。
「あら? シェリル? 遅かったじゃない。今日はもう来ないかと思ったわ」
「外で何かあったそうよ? 貴女のところの人が動いていたし、屋敷から出て来て大丈夫なの?」
まずは手前のテーブル席の女性たちがそう言えば。
「そういや、ウチの屋敷の執事もビーンズ家に連絡をしてたぜ?」
「俺のところもだ!」
離れた奥のカウンター席の男性たちも加わってくる。
そして。
「……そっちの娘は何なんだ?」
お姉さんの後から店に入ったボクに気付いたようで、不思議そうな声を上げたりもしている。
ちなみに、今更ではあるがこのお姉さんはシェリルという名前らしい。
名前を聞くタイミングを逃していて、身内がビーンズ家の商会で働いている……って情報しか知らなかったが、ようやくだ。
ともあれ、店の中の人間の視線がボクに集まった。
顔を隠した灰色交じりの銀髪で武器を持つ女の子で、ビーンズ家の使用人と一緒にいる者といえば、いくらこの街が大きいからってボクくらいしかいないはずだ。
街の兵や工房の人間は一目でボクだと分かっていたが……自分で思っているよりもまだまだ知名度は低いのかもしれない。
まぁ、街に来たのも二度目だし、むしろそれが当たり前なのかな?
色々考えては首を傾げているボクと違って、お姉さんは周りの声に適当に答えている。
「ビーンズ家のお客様よ」
理由はよくわからないが、お姉さんはボクのことを広める気はないようだ。
まぁ……あんまり顔が売れてもボクじゃ対応出来ないだろうし、その方がいいのは間違いない。
「ビーンズ家のか……。そういや昼間街の外で魔物と戦闘があったんだったな。出入りの商人が、ビーンズ家が村の護衛が騎士団と一緒に戦ったとか言っていたが……ソレか!」
注文を聞きに来たらしい店員の言葉に、お姉さんはチラっとこちらを見ると、何かの合図なのかパチパチとウィンクをしている。
答えていいかどうかってことかな?
街のすぐ側でのことだし、実際に見ていた者も多かったためわざわざ隠すようなことではない。
今はまだアレが誰なのか……とまでは広まっていないようだが、それだって御者のおじさんが話していたようだし、そのうち知られることになるだろう。
ボクは「構わない」と頷いた。
「そう、ソレ。街の外と……そもそも村でも魔獣と一戦していたから武器が傷んでいたそうよ。だから、ジャック様の指示で工房へ案内していたの。ついでに街の案内もね」
そう言って懐から小さな袋を取り出すと、店員に向かって振って見せた。
小さくチャリチャリと金属が触れ合うような音がしている。
袋にビーンズ家のマークが入っているし……ジャックからお金を預かっていたらしい。




