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準備が出来たという台の上の筒に視線を向けると、いつの間にやら筒に色々な器具やケーブルが接続されて、内側から淡い光が漏れている。
屋敷のドライヤーの時のように、壁に挿したケーブルから何かエネルギーが流れているんだろう。
「この中に手入れする武器を入れるんだが……お嬢ちゃんに手伝ってもらいたいのがこれだ」
準備をしていた職人が「見てくれ」と言って台の上の器具を指した。
水晶玉みたいな球体と、液体が三分の一ほど入った試験管のような物が六本も一緒になっていて、見た目だけなら何かの実験装置みたいだ。
「……これで何を?」
「これには魔力が流れているんだが、今から武器をその中に入れることで魔力の流れが乱れるんだ。それを、こっちの器具にお嬢ちゃんが魔力を流して整えていくんだ」
「ほぅほぅ……」
彼の説明によると、この筒にセットされた武器に魔力が流れて、その魔力の流れ方が試験管の中の液体の増減で視覚化出来るらしい。
武器内の回路みたいな物に瘴気が詰まることで魔力の流れに淀みが出来るんだが、セットされた球体に外から魔力を流すことで、その淀みを取り除けるそうだ。
試験管が武器の各位置に対応していて、一目でわかる優れものだ。
問題は……。
「こっちに魔力を流すのはわかったんですけど……どうやってコントロールするんですか?」
個別に分かれている試験管と違って、球体の方は一つしかないからな。
ボクが首を傾げながら方法を訊ねると、彼は気まずそうな表情を浮かべた。
「……勘だな。なんでも魔力の流し方で操作するらしいが……俺たちじゃ扱えないから説明のしようがない」
「えぇぇ……」
仕事モードに入ったのか職人の言葉遣いがだんだんとラフになっていくのに対して、ボクは徐々に緊張して来た。
魔道具もミスリルなんてファンタジーな金属に関しても、今日初めて知ったことだし、物に魔力を流す……ってことも今日初めて経験したことだ。
協力すること自体は全然構わないんだが、もう少し情報が欲しい……。
だが、躊躇うボクに彼は笑いながら声をかけてくる。
「まあ……完璧には出来なくても、別に武器の状態が悪くなることはないしな。気軽にやってくれよ」
「それなら……やってみます」
どうやらボクが上手く出来なくても壊れるようなことはないらしい。
それなら、もともと手伝うつもりで来たんだし、ちょっとチャレンジしてみてもいいだろう。
ボクは椅子に座りなおすと、職人たちに向かって頷いた。
◇
ボクがやると答えると、彼らはすぐに稼働を始めた筒の中に穂先をセットした。
モーターの駆動音が聞こえ始めたかと思うと、試験管の中の液体がボコボコ音を立てながら上下し始めた。
立てられた六本全部中の液体の量が、稼働する前は同じ量だったのに今はバラバラだ。
ともかく、その状態をどうにかするために、ボクは筒に接続された球体に手を伸ばした。
どうも工房で働く職人と魔力を扱う技師は管轄が違うようで、今日の分の仕事を終えた技師は既に帰宅していて工房にはおらず、誰からも操作方法やコツを聞くことは出来ない。
一体どうやってコントロールしたらいいのか職人たちもわからないみたいだし、完全に勘なんだが。。
「おおっ!?」
「上手いぞ!!」
この球体のどこにどう魔力を当てるが正しいのかわからないが、それでも魔力の強弱や放出の仕方で変わるようだ。
時折魔力を放出する手に小さく反発するような感触があるが、その都度試験管の中の液体が動いている。
それに合わせてコントロールしているんだが、周囲の職人たちの反応を見ると、今のところは何とか上手くやれているみたいだ。
「む……む……む」
額に汗を浮かべて、小さく唸りながら球体に魔力を当てていると、職人が「いいぞ! あと五分くらいだ!」と励ましてきた。




