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「ああ……悪いな、立たせたままだった。座っていてくれ」
そう言うと、椅子を台の前に持って来た。
「はぁ……」
見た感じ何か爆発したり飛び散ったり……逃げなければいけないような事態は起きそうにないし、座っていても大丈夫だろう。
ボクは椅子に座ると、彼らの準備を見守ることにした。
「あの……ボクは魔力で何かをするんですよね? 何をするんですか?」
武器の手入れといえば、研ぐか磨くか……油を注すかだろうが、その工程のどこに魔力が必要になるんだろう?
ボクの質問に職人が答えようと口を開きかけたタイミングで、ドアがノックされたかと思うと、返事を待たずに「入るぞ!」と開けられた。
同時に人を叩くような音と「痛っ!?」というおじさんの声も聞こえて来た。
恐らく、お姉さんが無断でドアを開けた人を叩くか何かしたんだろう。
頼もしい限りだ。
「……丁度良かった。俺たちは準備をするから、お前たちがお嬢さんに説明してやってくれよ」
先に部屋にいた職人たちはそう言うと、再び作業に取り掛かった。
台に固定された筒にケーブルを挿したり、色々忙しそうに動いている。
その様子を見たお姉さんが、溜め息を吐きながら一人の男性の肩を押してこちらに連れて来た。
彼は被っていた帽子を脱いでバツが悪そうな顔をしている。
「アリスお嬢様、こちらが工房の責任者です」
「先程はすいません……少々気が急いてしまって。工房長のロイです」
この様子だと、ドアを開けたのは彼か。
ドアの方を見ると、同じく見学に来た工房の人たちが覗き込んでいる。
室内はまだまだ余裕があるし入って来てもらってもいいだろう。
ボクが彼らに向かって手招きをすると、頭を下げてゾロゾロと入って来た。
「気にしなくていいですよ。それよりも、作業の説明をお願いしていいですか? ボクが何をしたらいいのかよくわからないんですよ」
「ああ……この作業は職人でもそうそう見る機会はないですからね。それでは説明させてもらいます……」
ロイが隣に来て、作業台を指した。
「まず、魔力武器ってのは戦闘に使って傷を与えれば与えるほど瘴気も溜め込んじまうんです。それが魔力の流れを阻害して、ドンドン性能を落としていくんですな」
「……なるほど?」
瘴気とか初めて聞く言葉だが、魔力の流れが悪くなるってことは何となく理解出来る。
「アレは……群狼戦士団で使っていた物なんですよね? 普段の手入れは?」
既に職人たちに答えたことだが同じ質問をされた。
よほど大事なことなんだろうな。
ボクが同じ答えを口にしようとしたが。
「それは聞いた。碌にしていなかったそうだ!」
「お嬢ちゃんが腰に差している方はマシだが、こっちはもうほとんどただの槍だ」
準備中の彼らが代わりに答えてしまった。
「そうか……そりゃー大仕事だな」
「そこまでなんですか? 魔力を流したら普通に使えたと思いますけど……」
イノシシやオオカミとの戦闘時の様子を彼らに話すと、何に驚いたのか目を丸くしている。
「何かおかしかったですか?」
「いえ……もちろん手入れをサボっていたからって全く使えなくなるわけじゃないんですが、効果を発揮するためには通常の何倍もの魔力が必要だったり、魔力の操作技術もずっと難しくなるんですよ」
「……へぇ」
「お嬢様は随分魔力量が豊富なようですな。それなら他にも色々扱えるかもしれません」
「色々ですか……団の武具は部屋にそのまま仕舞ってるから、探せば何か見つかるかもしれませんね」
魔力武器なんて存在を知らなかったし、そもそも今日まで出番がなかった武具たちだ。
適当に部屋に並べたままだったが、機会があれば一度じっくり見てみるのもいいかもしれない。
「その際は是非ウチに持ってきて下さい。……おい、まだ出来ないのか?」
「後はこれを繋ぐだけだ。黙って見てろよ……よし、お嬢ちゃん、出来たぞ!」




