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「うるさくて悪いな! こっちだ!」
裏口から工房の中に入ると、金属を叩くような音がそこら中から響いていた。
工房の半分が開けた作業場になっていて、そこでは職人たちが真っ赤に熱せられた金属の塊に金槌を振り下ろしている。
工事現場とまでは言わないが、天井が高いから反響してかなりのうるささだ。
そして、火が入れられた炉の所為か、工房内の熱気も凄い。
中に入るまでほとんど気にならなかったし、防音や防熱がしっかりしているんだろうな。
ボクがキョロキョロ中を見ていると、職人の一人が説明を始めた。
「このラカンパ周辺で使われる農耕器具の大半はここで作られているんだ。特別に変わった物は作っていないんだが……それでも同じサイズ同じ品質を大量に作れるってことで、評判がいいんだぞ? リチャード様はわかるよな? リチャード様の隊の武具もここで作っているんだ」
「それは凄いですね」
工場で大量生産……ってことが出来ない以上、今彼らがやっているように全部手作業で製作しているんだろうが、それで精度の高い製品を量産出来るのは、前世で文系だったボクでも理解出来る。
それだけ腕も良いし真面目な人間が揃っているってことだろう。
「後は……規模は小さいが、ビーンズ家の魔道具関係もここで扱っている。そっちだな」
今度は別の一人が反対側を指した。
片側が開けた作業場になっているのに対して、その反対側には頑丈な分厚い木で仕切られた部屋がいくつも並んでいる。
その中の一つの前で足を止めると、「ここだ」と言って中に入って行った。
「あんまり広くはないが……ここのように暑かったりうるさかったりはしないから、お嬢さんも安心してくれよな」
「お嬢さん、ウチの職人で見たいやつがいるかもしれないから声をかけて来てもいいかい? 多少や魔道具や魔法武器を扱うこともあるんだが、このレベルの代物はそうそうお目にかかれないからな」
「え……ええ。ボクは構いませんが……」
ここで働く者もこの場所も。
初めてのこと過ぎて判断が出来ない。
ってことで、判断を任せるために「どうしようか……」とお姉さんを見ると、彼女は一つ頷いてその職人の前に歩いて行った。
「狭いしアリスお嬢様もお疲れです。誰でもというわけにはいきません。班長以上と魔道具の関連作業に携わる者のみにして下さい」
「お……おう。呼んでくるよ」
お姉さんがテキパキと仕切ってくれている。
実に頼もしい。
この場はこのまま彼女に任せて、ボクは部屋の中に入って行った。
◇
入った部屋は八畳ほどの広さで、台に固定された一メートルほどの長さの筒と作業用の道具と椅子があるだけだった。
ボクの槍を持っていた職人が、その台の上に槍を置くと穂先を取り外した。
「お嬢さん、この槍でどれくらい戦ったんだ?」
「ボクは今日初めて使いました」
その戦闘で倒したイノシシと風呂場での手入れ。
そして、街のすぐ手前で倒したオオカミについて話すと、職人たちが槍を睨みながら揃って唸る。
「……なにかマズかったですか?」
特殊な武器みたいだし、それ相応の手入れをしないと悪化するとかだろうか……と不安に思っていると、一人がこちらを見た。
「この槍は群狼の所有品だよな? 野営地ではどんな手入れをしていたかわかるかい?」
ボクも手伝いはしていたが洗濯や料理や怪我人の治療がメインで、武具に関しては全くと言っていいほど近付いたことがなかった。
どんなことをしていたかな……と思い出すが。
「確か……持ち主が自分たちで手入れしていました。あぁ、でもたまに商隊と一緒に鍛冶師が来ていたと思います」
その程度が精いっぱいだ。
だが、彼らにはその情報でも十分だったらしい。
呆れたような声で「だからか……」と呟くと、道具を台の上に広げ始めた。




