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あれからすぐに部屋に祖父が呼んだ使用人がやって来た。
ボクを部屋に案内してくれたお姉さんで、彼女は家族がビーンズ家の商会で働いているため、工房の職人にも顔が利くらしい。
部屋に押しかけて来た職人たちとも顔見知りのようで、祖父から事情を聞くと快く……かはわからないが、ともかく引き受けてくれた。
作業の完了が遅くなっても困るし、ボクたちはすぐに工房に向かうことにした。
初めて街を訪れた時はずっと馬車に乗っていたし、今日はまっすぐ屋敷に向かったしで、街をゆっくり歩くのは実はこれが初めてだ。
一緒に歩いている彼らにそう伝えると、挙って街の様子やこれから向かう工房について色々話してくれた。
「もっと離れていると思ったんですけど、結構近いんですね?」
工房は当たり前だが商業区にある。
居住区と隣り合っているし、そこのもっと奥にあると思ったんだが……どうも商業区の端ではあるが居住区のすぐ側にあるらしい。
職場と住居が近くにある方が楽だから……って理由らしいが、煙や臭いとかは大丈夫なんだろうか?
貴族を始めとした裕福な者たちの屋敷は居住区の奥だから関係ないかもしれないが、環境面が少々気になるな。
「四角や円形の街壁で囲まれた街が多いのですが、ラカンパの街はちょっと変わった形をしているそうです。私も地図を見たことはないので正確にはわからないのですが、四角い壁の中でさらに星形に区切っていると聞きました。そのため空いた箇所に工房や屠殺場があるんです」
「へぇ……」
星形の街というと前世の五稜郭とかを思い出すが……街壁の中にそんな風にさらに街を区切ったんだろうか?
何のためかはわからないが、変わった形の街だってことと、空いたスペースが多いこともわかった。
機会があれば観光がてら街の様子を見て回りたいな。
妙に街の人たちの視線が集まっている気もするが……ボクの恰好のせいかな?
散策するにしても、もう少し人の視線に慣れてからか……。
彼女たちの話を聞きながら、ボクはそんなことを考えていた。
◇
さて、屋敷を出てから歩くこと二十分ほど。
いくつかの路地を渡ったり通り抜けたりしていると、大きな建物が並ぶ一画にやって来た。
大きさも造りも……村の屋敷に似ている。
この辺りの建物はどれも同じような造りだし、工房とか倉庫街なんだろう。
「そこが工房だ。正面に入口があるんだが、今は明日出荷する荷物が集められているから塞がっている。それでも一応通れるとは思うが……」
職人の一人がその中の一棟を指して、そう言いながらボクたちに視線を向ける。
頭の上から足の先まで上下すると……。
「止めた方がいいな」
「そうですね。私はともかく、アリスお嬢様の恰好では歩きにくいでしょう」
頷き合う彼女たちを見て、ボクも自分の姿を見てみるが……屋敷で風呂上りに用意された恰好のままだ。
荷物で塞がっている場所どころか、そもそも街中を歩くことにだって不向きな恰好な気がするし、よくよく考えるとなんでこの恰好のまま来ちゃったんだろうか?
「ちょいと歩くが、裏に通用口がある。そっちで構わないよな?」
「ええ。お願いします」
ボクが頷くと、職人たちが「こっちだ」と言って建物の脇を通って行く。
「足場が悪いから気を付けてくれよ」
「はーい」
彼が言うように、街の路地と違ってこちらは整地されておらず地肌がむき出した。
ますますもって、こんな恰好で訪れる場所ではない。
先程街の人の視線が集まっているのは、ボクの髪色や口元に巻いたスカーフや小剣の所為かと思っていた。
恰好の所為なのは確かだが……もっとシンプルに今のこの服装の所為だったのかもな。
ボクはお姉さんと一緒に、デコボコの地面に足を取られないように気を付けながら、前を歩く彼らの後を追っていった。




