102
ドンドンと乱暴にドアが叩かれたかと思うと、祖父の返事を待たずに「会頭、入りますぞ!」と男たちが入って来た。
ボクの偏見かもしれないが、職人のイメージを損なわない中々の強面のおじさんばかりだ。
群狼戦士団にいたとしても、違和感を覚えないだろう。
前世のボクなら、こんな強面のおじさんたちが部屋に押し入ってきたら、見ないふりをするか隅で小さくなっていたかもしれない。
だが。
「うっ……会頭、こちらのお嬢さんは……?」
睨みつけるでもなく怯えるでもなく……ただ自分たちをジッと見ている変な小娘。
その存在に彼らの方が尻込みしてしまった。
まぁ……髪の色はともかく、口元を隠しているし我ながら変な奴だと自覚はしているし、そんなのがこの部屋にいたら何なんだって思うだろう。
「私の孫だ。それで……何を騒いでいたのだ?」
祖父の睨みながらの言葉に、男たちは「おお……」と後ずさった。
「お孫さん……ってことは、群狼の新団長ですか?」
「そうだ。お前たちに手入れを任せた武器の持ち主だな。それか?」
「ああ……そうです。あの武器どちらもミスリル製ですよ? 俺たちも手入れは出来ますが、ここじゃ必要な設備がありません。工房に持って行かないと……」
ミスリル……ってファンタジー世界でよくある金属だよね?
魔力も魔法も魔物だって存在する世界だし、そんな不思議物質があっても不思議ではないが……鉄や鋼とは何が違うんだろうか?
あの青い光も何か関係ありそうだ。
とりあえず、口を挟まず彼らの話に集中することにした。
「ふむ。……孫は今日は滞在するが、明日には村に戻る予定だ。それまでに完了するか?」
「まあ、すぐに取り掛かれば夜には片付きますが……」
職人の一人が、ボクを見る。
「お嬢さんも知ってると思うが……アレは魔力武器なんだ。魔力を通してもらわないとまともな手入れが出来なくてな……」
「……魔力武器ってのが何かはわからないけど、ボクの手が必要ってことでしょうか?」
「ああ。ウチの工房にも魔力を扱える者はいるが、今日はもう魔力を使っちまってるんだ。群狼の団長で、アレをあそこまで扱えているんなら魔力だって十分持ってるんだろう?」
この世界は、魔法を扱える者はもちろん、魔力を扱える者もかなり少ない。
村でもちょっと扱える……って程度の者が、屋敷に数人いるだけだ。
この街は村に比べるとずっと規模が大きいんだが……それでも数は足りていないのか。
「アリス、無理はする必要はないぞ。お前は今日村と街のすぐ外と、既にもう二度も戦闘を行っている」
職人の言葉に「ええ」と頷きそうになるボクに、祖父が待ったをかけた。
確かにイノシシの群れとオオカミの群れと……今日は魔力を使った戦闘尽くめだったが、実はまだまだ余裕がある。
物心ついてから暇を見つけては魔力の操作訓練を行っていたことが無駄ではなかったのか、ボクは魔力の量にはちょっと自信を持っている。
まぁ……比べられるほどこの世界の人間を知らないんだが、ボクが明らかに魔力が欠乏したのは、エリーゼ様たちと出会った時の戦闘だけだ。
工房でどんなことをするのかはわからないが、手伝い程度でどうにかなるってことはないだろう。
「ボクは大丈夫です。えー……と?」
祖父のことをどう呼ぼうか迷っていると、そのことに気付いた彼が「フッ」と笑った。
「じじいでも何でも好きに呼びなさい」
「それじゃあ……ジャックさん。何か問題とかありますか?」
「君が構わないのなら好きにしていいが……私に用事があって来たのではないのか?」
「あ……いえ、部屋で待ってるだけなのも退屈だったから……」
「そうか……わかった。馬車は出せないが、使用人を一人付けよう。彼女の言うことをよく聞いて、適当に片付けたら帰って来なさい」




