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祖父の部屋に向かった使用人の彼が戻ってくるのを待つ間、ボクは二階から玄関ホールを眺めていた。
今のところお客さんが来たりはしないが、屋敷で働く者たちが忙しそうに行ったり来たりしている。
村の屋敷に比べると、男女ともに若かったり見た目も比較的良かったり……立ち振る舞いもしっかりしているし、外からのお客さんの相手をさせるために教育でもしているんだろうか?
「おや?」
感心しながら玄関ホールを見下ろしていると、今度は右側がバタバタと数人の足音が聞こえて来た。
随分と慌てているようだし……今の間見た限りでは屋敷の使用人ではなさそうだ。
「お客さんでもなさそうだし……裏口から来たのかな? ここからだと見えないね……」
手すりから軽く身を乗り出しているんだが、一階の奥の方にいるのかここから見えないようだ。
誰なんだろうかと気にはなるが……ボクとは関係ないし、身を乗り出して覗き込むほどのことでもない。
使用人に見られてもみっともないし、大人しく座って待っておこうかな。
手すりから離れて椅子に戻ろうとしたんだが。
「会頭はいないのか? 話をさせろ!」
「武器を見たが、アレはここじゃなくて工房に持って行かないと手に負えないぞ?」
「ちょっと、皆さん……落ち着いてください!? 道具を振り回さないでっ!」
一階の奥からそんな声が聞こえてくる。
使用人たちが宥めているようだが……男たちの勢いは収まりそうもない。
どうやら武器の手入れに呼ばれた職人のようだが……肝心のその武器が特殊な物らしくこの屋敷では出来ないと。
特殊な武器……ボクの槍か?
はしたないと承知しつつも、ボクはこっそり彼らの話に耳を澄ませた。
「あの槍と剣は誰の持ち物だ? ビーンズ家の警備にあんな物は卸していないぞ?」
「群狼の武器でも流れて来たのか? 上に言って全部買い占めさせろよ!」
正解だ。
ボクはただ単に、あの槍は細くて握りやすいから、小剣は威圧感が少ないからって理由で選んだだけなんだが、見る人が見たらちゃんとどういう代物なのかわかるようだ。
しかし……凄い剣幕だ。
先程から使用人が頑張って宥めているが、全く収まらない。
よっぽど良い武器なんだろうな。
「アリスお嬢様……お嬢様?」
祖父の部屋に向かっていた使用人が戻って来たが……手摺の側にしゃがみこんでいるボクを見て「どうしたんですか?」と困惑している。
ついでに、下の喧騒に気付いたようでそちらを覗き込んでいる。
「……気にしないで下さい。それで、どうでしたか?」
「はい……お会いになると」
彼はボクの言葉に頷くと、「案内します」と言って歩き始めた。
◇
ボクが通された祖父の部屋は彼が屋敷でも仕事をするための部屋のようで、彼の仕事用の机と椅子の他は資料が詰め込まれている本棚と、後は簡易椅子が数脚あるだけだった。
何の飾りもないし、村のジョンの部屋よりも地味だが彼の趣味だろうか?
ともあれ、使用人の彼が目の前に椅子を持って来たので座らせてもらう。
ボクが座ったのを待って、祖父がこちらを見る。
「それで……話というのは何かな?」
「大したことじゃないんですけど……」と前置きをして、話を始めようとしたんだが。
「む? どうかしたのか?」
何やら廊下の方から声が聞こえてくる。
距離があるし廊下でのことだから内容までは聞き取れないが……何やら複数の男性同士が揉めているようだ。
祖父は使用人に確認に行かせようとしたが、その前にボクが「多分……」と口を開く。
「さっき、一階の方で職人さんみたいな人が武器に付いて使用人を問いただしていたんですよね。会頭に話をさせろって」
「職人……ああ……武器の手入れさせるために呼んだ者たちか。……揉めるようなことだったのか?」
直接武器を見ていない祖父が首をかしげていると、声はドンドンと部屋に近づいてきていた。




