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髪の手入れが終わったところで、ボクは部屋に戻って来た。
返してもらったスカーフも口元に巻きつけたし、汚れも落としてサッパリすることが出来た。
後は……部屋で休んでいたらいいのかな?
「それでは、私はこれで失礼します。何かありましたら、この服を着ている者に申し付けてください」
「はーい。ありがとうございます」
お姉さんに礼を言って部屋を出て行く姿を見送ると、腕を組みながら部屋の中をウロウロし始めた。
特に室内の説明は受けなかったが、もしかしたら浴室にあったように壁や柱に何かを挿す箇所があるんじゃないかな?
「……そう思ったんだけどね。何もないのかな?」
十分ほど室内の壁や柱や家具の後ろや……色々と見て回ったんだが、特に何もない。
アレが何に接続されているのかはわからないが、村の屋敷でも見たことがないような設備だったし、浴室だけに設置されているわけではないはずだ。
「それとも客室は別になっているのかな? ボクみたいに全然知らない人だっているだろうしね……」
少なくとも、この世界の一般市民にまで普及しているような代物ではないはずだ。
この部屋はハイソは人が通される部屋なのかもしれないが、だからと言って全員が先端技術や知識に詳しいわけじゃないだろうし、事故を避けるためにもよくわからない物は敢えて遠ざけるって可能性もある。
その分、いつ呼ばれてもいいように人を多く配しているんだろう。
おじいさんたちと話した部屋がある一画よりも、この部屋がある一画の方が使用人の数はずっと多かったしな……。
室内探索を切り上げたボクはベッドに横になった。
「なにしようかね……」
今日のボクの本来の予定は、朝は子供たちの勉強に同行して、昼は農場周りの見回りと武器の手入れで、夜は魔力の操作の訓練と読書と何か適当な片付け……だった。
お客さんとして通されたここで何か出来ることがあるかな?
「……部屋出るか」
このまま部屋でゴロゴロしていても、服に皴が出来るだけだし……とりあえず部屋を出ることにした。
おじいさんか祖父かどっちかに何かやることはないか聞いてみるつもりだ。
部屋を出ると、ボクが声をかけなくても廊下に角に控えていた使用人が声をかけて来た。
「お嬢様? どうかされましたか?」
「おじいさんか祖父と話をしたいんですけど、会えそうかどうかわかりますか?」
「ご当主様と、ジャック会頭ですね? ご当主様は先程お客様がお見えになったのでお会いするのは難しいと思いますが、ジャック会頭は自室に戻られています。すぐに確認して参りますので……」
部屋で待っていてくれ……と続きそうだったが、その前にボクが「ボクも途中まで行きますね」と言い切って歩き始めた。
彼は「え?」と驚くが、慌ててボクに追いつくと前を歩いて行く。
「ジャック会頭も必ず会えるかはわかりませんが……」
「ええ、構いません。部屋にいても退屈なので、それならちょっと歩かさせてもらいます」
もし祖父が忙しくて会うのが無理でも、それならそれで屋敷の探検だ。
◇
このお屋敷は左右対称の所謂洋館だ。
玄関のある中央の一階には、人を集められる大広間……とまではいかないが、ちょっとしたホールがあって、二階には先程ボクが入った風呂や食堂などがある。
右側の一階には、これまた先程ボクが行った応接室やおじいさんたちの執務室があって、二階がビーンズ家の人間の生活スペースらしい。
左側が客用スペースだ。
ちなみに、ボクは一応ビーンズ家の人間ではあるがまだお客さん扱いで、そっちの左の二階に通されている。
左側の廊下を抜けて一階の玄関ホールが見える場所までやって来た。
ソファーとテーブルが置いてあるし、ちょっとした雑談スペースになっている。
使用人の彼は、そのソファーを指すと「それでは、こちらでお待ちください」と言って、右側へと早歩きで向かった。




