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着替えを済ませて脱衣所から出てくると、お姉さんの他にもう少し年上の使用人も一緒に待機していた。
その彼女は何やら取っ手のついた謎の筒……みたいな物を手にしている。
何だろうか?
そちらを見ていると、最初のお姉さんがこちらにやって来た。
「のぼせたりはしませんでしたか?」
「ええ……大丈夫です。ソレは何ですか?」
お姉さんは「ああ……」と振り向いた。
「温風で髪を乾かす道具です。最近他国で発明されたとかでまだ王都や領都でもまだそこまで出回っていないのですが……ジャック様がたまたまいくつかを入手出来たんですよ」
その説明を聞いて「へぇ……」と気の抜けたような返事をしたが、実は内心ビックリしていた。
動力はわからないが、要は前世であったドライヤーと同じ代物だ。
言われてみれば形も似ている気がするし……使い方も同じなんだろう。
しかし、気になるのはコードが付いていることだ。
この世界はボクが知る限り電気なんて通っていないはずなんだが……アレは何に繋ぐんだろうか?
ま一メートルくらいの長さがあるし飾りってことはないだろう。
……何のために?
ジッと見つめていると、ドライヤーを手にした方の使用人が笑いながら「アリスお嬢様、今から髪を乾かしますからこちらへどうぞ」と壁の側の椅子を指した。
色々気になる点はあるが、とりあえずボクは彼女の言葉に従って椅子に座ることにした。
別に火を噴いたり爆発するようなものでもないし、実際に使っているのを見たら何かわかるかもしれない。
とりあえず髪は乾くだろう。
「じゃあ、お願いします」
「こちらは外させてもらいますね」
背中を向けて椅子に座るなり口元に巻いていたスカーフを外されてしまい、思わず「あ」と声が漏れたが、彼女はもうスカーフを畳んでもう一人のお姉さんに手渡していた。
確かに邪魔になるのかもしれないが……どうにも落ち着かない。
ソワソワしていると、彼女はドライヤーから延びたコードを壁の柱に挿した。
飾りや彫刻に紛れてパッと見だと気付けないが、何かの挿し口があるようだ。
……まんま電源コードだ。
本当にどうなっているんだろう?
「それでは暖かい風が出ますからね」
彼女がそう言って手元で何か操作をすると、小さな「ブーン……」という音と共に温風が噴き出て来た。
ドライヤーだ。
◇
髪を乾かし終わると、ドライヤーを扱っていた使用人はドライヤーを持ってすぐに部屋を出て行ってしまった。
じっくり見てみたかったんだけどな。
温風が噴き出て髪の毛を乾かす……ドライヤーで間違いないんだが、動力源が不明なんだよな。
上手くそこを調べることが出来たら、自分でも作れそうな気もするんだけど……とコードを挿していた壁の柱を睨んでいると、お姉さんがブラシを手に話しかけてきた。
「温風機が気になりましたか?」
「温風機っていうんですね」
「正式名称ではないそうですが……そう呼ばれているそうです。もし壊れても職人が修理出来るかわからないので、しっかりと保管しているんです。私も触ったことがありません」
高価……ってこともあるが、希少品なので管理を厳重にしているのか。
「髪のセットはどうしますか?」
「あ……特には」
「わかりました」
そう言うと、ブラッシングを始めた。
そういえば人に髪の毛をいじってもらうのは初めてなんじゃないか?
風呂は村でいつも入っているが……今まで碌に髪の毛の手入れをしてこなかった。
魔力の操作訓練のついでに自分の身体に回復を施しているが……アレは髪の毛にも効果があるんだろうか?
「白……銀色でしょうか? 美しいですね。長いのに全く傷んでいませんよ」
「ありがとうございます。特に何もやっていないんですが……」
お姉さんはとりあえず褒めてくれているが……お世辞じゃないよね?




