第3話「影山くんと話してみよう!」
数日前、俺には彼女ができた。
何度も言うが、ニセモノの恋人関係だ。
クラス1の美少女たる薬院 彩葉が俺を彼氏役に任命した理由は3つある。
まずは、俺という人間がいかにも彼氏のいなさそうなくらいに女っ気がないから。幼馴染の真由希とはすっかり疎遠だし。
次に、影山くんに少なからずの嫉妬心を植え付けるため。それは上手くいくのか正直よく分からんのだが、本人には言わない方がいいだろう。
そして、自分に告白してくる男子たちという名の害虫に対するむしよけスプレーにするため。
一応言っておくが、100歩以上歩いたらスプレーの効果が切れるわけでは無い。てか最後のメガストーンどうやったら手に入るんだろう。ああ、早く図鑑埋めたい。そしてひかるおまもりも早く欲しい。
そして、俺が協力している理由は"高宮 真由希の名誉を守るため"。
俺が協力を拒んでしまったが最後、"天神 燦斗は薬院 彩葉というものがありながら、高宮 真由希と二股をかけている"というありもしないデマが彩葉によって拡散されるというあまりにも恐ろしい結末が待っており、俺はその最悪の未来を回避するために行動している。
タイムリープ系主人公みたいなことを言ってしまったが、これはもうほとんどいじめだ。薬院 彩葉のことはマジで嫌いだ。あいつマジでろくな死に方しないと思う。末代まで呪ってやりたい気持ちでいっぱいだ。
これは冴えない俺とクラス1の美少女が偽装カップルから本当の恋に目覚め、本当にカップルになるまでの王道ストーリーなどではないのだから。
さて、今という現実から目を背けて過去にばかり目を向けてしまって時間を浪費していると、LIMEで『何をしているの?早くしなさい』と脅迫メッセージをまた送り付けられてしまうことになる。
彩葉から提示された"恐らく本人に撮影の許可を貰っていないことが伺えるカメラアングルの写真"によると俺の左斜めの席にいる何故かうっすらと透けて見える謎の男子が影山くんのようだ。
なんでうっすら透けているんだろうか。彼は一番くじのラストワン賞のスペシャルクリアカラーverのフィギュアか何かなのだろうか?実はA賞の影山くんは既に彩葉に回収されており、今はラストワン賞を狙っているのかもしれない。ということは、彩葉にとって俺はG賞辺りのハズレ枠の缶バッジ辺りということになるのだろうか?自分で言っていて悲しくなってきた。
それはそれとして、影山くんにさっそく話しかけてみることにする。
今まで一度も話したことない相手どころか、ここ最近まで存在すら認識出来ていなかったので少し申し訳ない気持ちもありつつ、声をかける。
「か、影山くん」
「!?」
影山くんは自分が話しかけられるなんて、と言わんばかりの驚き顔を見せた後、ビュンっッ!と音を立てながら一瞬で姿を消した。
戦闘開始1ターン目かつ相手が先制で『にげる』を選択してくるの無理ゲーすぎるだろ。
くろいまなざし or かげふみ必須じゃん。
ってこれ、アクションバトルものじゃなくて一応はラブコメなんだから、そんな戦闘で役に立ちそうなスキルがあった所で活かせる機会はないんだけど。
作戦会議のため、教室を離脱し、いつもの会議部屋こと屋上階段の踊り場へ向かう。
今回のプロジェクトにおける上司へ進捗状況の報告をしなければならない。
報連相は大切だ。これは社会人になると必須のスキルとなる。今からこの地獄の無賃労働の中で自分に叩き込んでおくとする。これは社会勉強だ。きっとそうだ。校外学習の一環だ。
「逃げられました」
「問題ないわ。これも予想通りよ」
「これからどうするんですか?」
「影山くんが逃げなくなるまで今の作業を繰り返すだけよ」
うわあ…。なんでそんなクソルーティンを俺がこなさなければならないのだろうか。てか自分でやれよ。その方が影山くんとくっつく成功率上がるだろ。自分の類まれなる圧倒的な美貌を活かせよ。クラス1の陰キャにクラス1の美少女が惚れているってもうそれだけで王道展開じゃん。クラス1という程でもない陰キャの俺を経由する意味がわからない。早く俺を解放してくれ。
「それからというもの、天神 燦斗が休み時間になる度に、影山に話しかけては一瞬で逃げられるという事象を目撃されており、天神 燦斗が影山をターゲットにしたなんらかのいじめ行為を行っているのでは?と密かに噂になるのだが、クラスに仲の良い友達がいない燦斗自身はそんなことを知る由もない」
「変なナレーション入れるな」
「でも言っていることは間違っていないでしょう?アナタ友達いないじゃない」
「い、いるもん、幼馴染が…」
「でもアナタが一方的に避けて疎遠になってるじゃない」
「ぐ、ぐぬぬぬぬ…」
真由希も俺に愛想尽かしてるに違いない。同じクラスになってもこの間まで一度も会話したこともなかったし、この間以来会話があったかと言われれば全くないし、話したくなんかないんだろう。
それからというもの、俺は幾度となく影山くんに話しかけ続けた。逃げるまでのタイムが徐々に遅くなっているため、少しずつ警戒心が溶けてきているのかもしれないが、問題はそこからだ。
当案件は、本来であれば彩葉が影山くんに告白すれば即解決しそうなシンプルな話なのだが、彩葉の彼氏たる俺という存在のせいで、"天神 燦斗というクソ彼氏から薬院 彩葉を奪って自分が幸せにしてやるんだ!"と思わせる必要があり、その難易度はとてもじゃないが簡単では無い。
しかし、俺は悪くない。むしよけ+影山くんと付き合うための当て馬要員として俺なんかに目をつけた彩葉の自業自得だ。早く俺を解放してくれ。
帰りのホームルーム終了後、帰ろうとする影山くんに最後の声掛けを実施。
すると。
「おう、影山クゥン…」
「天神君、な…何か用?」
あからさまに怯えられてて泣きそう。君が俺からだる絡みをされている被害者であると同時に、俺は加害者にして被害者なのだ。薬院 彩葉という邪悪なる存在の被害者。その点で言えば、俺と影山くんは同じ人間によって苦しめられる"仲間"のようなものだ。
だが、俺はこれから影山くんから忌み嫌われ、最悪の場合は彼から憎まれる存在になるに違いない。マジで泣いていいすか?
しかし、逃げられずにまさかの返答があったのは予想外。これはチャンスかもしれない。非常に心苦しいが、いじめっ子のようなムーブを取らせていただく。
影山くん。君に恨みはないが、疎遠になった幼馴染の平穏な学生を守るための犠牲となってくれ。
「ちょっと顔貸しな…」
彩葉が言っていた"天神 燦斗が影山くんをいじめていると噂になる未来"に近づきつつあって泣きそうになるが、ふたりで話せる場所まで彼を誘導する。道中、すれ違った振りをして俺たちの動向を伺っていた彩葉がニヤリと笑みを浮かべていたのが怖すぎて今日は眠れる気がしない。
そして、真由希からも"なんでこの二人が?アキ、今度は何をしてるの?"という警戒に満ちた視線を受けてしまい、俺はもういよいよ泣いてしまいそうになるが、なんとかいつもの屋上階段の踊り場へたどり着いた。
「こ、こんなところまで連れてきて…何なの?」
カツアゲされるとか思ってるのだろうか。俺みたいな地味メンにそんなこと出来るわけないだろうに。影山くんよりは影濃いけど。彩葉のせいでクラス中の注目を浴びまくる要注意人物になってしまったんだけども。そんな人物から呼び出されるのってめちゃくちゃ怖い気がしてきた。影山くんほんとごめん。
「俺の彼女、誰か知ってるよなァ?」
「や、薬院さん、でしょ」
「お前、薬院 彩葉が好きなんだって?」
ちょっと揺さぶりを掛けてみる。どんなリアクションするかによって、影山くんが彩葉のことをどう思っているかがわかるというものだ。
「な、ななななな、そ、そそそそそんなこと」
いやあるじゃん。絶対好きじゃん。今日イチキョドってるじゃん。ふむ、この辺は彩葉の言っていた通りのようだ。
「彩葉は良いオンナだぜぇ…?頼めば、なんでもしてくれるからなァ」
これは彩葉に提示されたセリフであり、そのような事実は一切存在しない。事実、俺は彩葉と手を繋いだことすらなければ、それ以上のことも一切していない。誓って本当だ。信じて欲しい。俺の純血は守られている。
「な、そんなッ…!」
「なんだよ悔しいのかァ?好きな子がこんな男に利用それてて辛いってかァ?」
「あ、天神君…き、キミは」
「あァ?なんだよ…」
「き、キミは、薬院さんの彼氏として相応しくない!」
悪役をノリノリで演じていたら、なんか影山くんの何らかのスイッチを押してしまったらしく、影がどんどん濃くなってきた。
「ボクは…キミから、薬院さんを奪う!そして、ボクが彼女を幸せにするんだ!」
覚醒してしまった。よくもまあこんなセリフを恥ずかしげもなく堂々と言えるものだ。俺にはクズ男ごっこの方が向いている。
「へっへっへ、やってみろよォ…お前なんかが、彩葉を俺から奪えると思ってんならなァ!ヒャッハッハッハ!」
悪役、楽しすぎる。もはやザコキャラみたいになって来てるが、俺は所詮当て馬。これで良いのだ。
影山くんは何かを決意したかのような表情のまま、その場を後にしてしまった。
珍しく、一瞬で消えるのではなく、普通に歩いていくのが見えた。なにかが起こったらしい。
影山くんの様子を見るために階段を降りると、目をハートにさせてガクガクと痙攣している彩葉が視界に入ってきて、思わず叫びそうになったが、これで何かが変わるだろう。
さあ、影山くん。この俺から薬院 彩葉を奪ってみろ。そして、彩葉の魔の手から真由希の平穏を二人で守ろうじゃないか。
よし。ガクガク痙攣してる彩葉は放置してとっとと家に帰ろう。疲れた。
別サイトに掲載していた続きをこちらに投稿し忘れていたので、今更ですが……その2




