第2話「クラスの全員に彼女バレしました」
薬院 彩葉。
クラスでもトップクラスの美少女で、そのクールな性格から多くの男子を魅力している。
先日、そんな彩葉から"彼氏になって欲しい"と告白され、俺と彩葉は"付き合う"ことになった。
また、蓋を開けてみれば"毎日毎日よく知らない男子に告白され続ける日々にうんざりしたから、彼氏のフリをして厄介払いしてほしい"というもので、告白されたんじゃなくて彼女なんていないであろう俺に夢見させてやるよ、というだけのものだったわけだが。
「燦斗君」
「なんでしょうか彩葉さん」
「クラスの人達が私たちを好奇の目で見ているわ」
「クラス1の美少女と親しげに話す謎の男子ですよ?注目されないはずがありません」
「確かにそうね。この私が特定の男子と話しているのだから、注目されても仕方ないわ」
「自分で言っちゃう?」
「私は実際、クラス1の美少女。何も間違っていないもの」
ここ最近で分かったことがある。
薬院 彩葉はかなりクセのある性格をしている。
あと、とてつもなく自分の美貌に自信がある。実際、物凄い美貌の持ち主だからそれくらい自己評価が高い方が清々しいというものだが、個人的にはもう少し謙虚でいてくれた方が可愛げを感じるのだが、まあ本当の彼女じゃないし別にいいんだけどね。
あと、彩葉は俺のことを"恋愛対象として絶対にナシ"と定期的に釘を指してくる。
毎日毎日言われるものだから、もうすっかりそういう目で見る気も起きなくなっているので安心して欲しいが、俺に対する信用はあまりないらしい。とほほ。
あと、クラスの男子たちからの『なぜお前のようなヤツが薬院さんと親しげに会話しているんだ』という視線を全方位から感じる。
正直、胃がキリキリするのでそのうち穴が空いてしまうのではないかという危険がある。
俺が何をしたというのか。クラス1の美少女と仲良さげに会話してたわ。つら。
そして、不思議なことに幼馴染の真由希がさっきからこちらをチラチラと見てきているのはなんなんだろうか。
俺が一方的に距離を置いたもんだから、結構気まずいんだが…ってなんかこっちに歩いてきてないか?おいまさか話しかけるのか?気まずいぞ?おい待ってくれ心の準備が
「…アキ」
一年以上、会話なんてなかった幼馴染が急に話しかけてきたもんだから、俺は気まずさで死にそうになっている。一体、なんの用なのだろうか。
「燦斗君、この人はお知り合いかしら?」
「高宮 真由希。俺の幼馴染だよ」
「…よろしく」
とても気まずい。
真由希と会話するのなんて、1年以上前の出来事な気がする。
「マ…高宮、何か用か?」
俺が一方的に真由希を避けたことがきっかけで疎遠になってしまった手前、昔みたいに『マユ』なんて気軽には呼ぶことはできない。
「…」
『高宮』なんて呼んだのは初めてだからか、しっくり来て無さそうな顔をしているが、『マユ』なんて親しげなあだ名で呼ぶのは抵抗があるから慣れて欲しい。
「…アキ、最近薬院さんと仲良いよね」
「まあ、な」
「もしかして、薬院さんと…つ、付き合ってるの?」
まあ、そういう質問がいずれ来るであろうとは思っていたが、その相手がよりにもよって真由希から来るというのは想定外だった。
真由希には嘘をつきたくない気持ちもあるが、クラスメイトが大勢いるこの状況では『付き合ってるけど偽の彼氏で、俺はただ利用されてるだけなんだよねアッハッハッハッハ』なんて言えるわけもない。
「そうよ!!燦斗君と私は付き合ってるのよ!恋人同士よ!!」
ちょっと、彩葉さん?声でかすぎじゃないですか?わざとクラス全体に聞こえるように声張ってますよね?
「…アキ、本当なの?」
「ああ…うん」
『エエエエエエエエエエッ!!!!!!』
俺がそれを肯定すると、クラス全員が衝撃の声をあげるのであった。
それからというもの、男子からは敵意だけでなく尊敬の眼差しを向けられたり、どうすればクラス1の美女と付き合えるのかと質問攻めにあったり、女子からはどちらが告白したのかとか天神のどこが好きなのかだとかそういったトークを目の前でされたり、真由希からはなんだかむっとした視線を送られ続けるし、もうストレスがMAXだった。
「…燦斗君、ここじゃ落ち着いて話もできないわ。場所を変えましょう」
誰のせいだと思ってるんだこの人は。
もしかしなくてもヤバい人なんじゃないか?
「わ、わかった」
ということで、この間も利用した屋上階段の踊り場へやってきた。
「燦斗君、聞きたいことがあるわ」
「何?」
「高宮 真由希さん、と言ったかしら。あの子は、あなたとどういう関係なのかしら?」
「マユにとっては、俺たちは幼馴染だよ。俺にとってはそれ以上だけど」
「それは、どういう意味かしら」
「俺にとってマユは、初恋の人だったから」
「確認するけど、あなたは高宮さんと付き合ってはいないのよね?」
「ああ、付き合ってないよ。告白すらしてない。中学の時疎遠になっちゃったから」
「何があったか、聞かせて貰うことはできるかしら?」
俺と真由希の関係に興味津々な様子なので、中学時代に俺と真由希がいかにして疎遠になったかを説明した。
「つまり、あなたは逃げ出したわけね」
「うっ」
「真実を知ることから逃げて、今に至るわけね。どうりで冴えないモテないどうしようもないオーラを醸し出していたわけだわ」
「そ、そこまで言わなくても良くない?」
「…まあ、いいわ。付き合っている訳ではないのであれば、私は別に構わないもの」
「あ、そうですか…」
「話してくれたお礼といってはなんだけれど、私の恋愛話をしてあげるわ」
「いや別にいいですけど」
「私ね、実は好きな人がいるのよ」
別にいいって言ったのに語り始めた…
「うちのクラスの影山くん、って分かる?」
「ごめん、そんな人いた?」
「そうなの。影山くんはとっても影が薄くて、いてもいなくても分からないような人」
好きな人なんだよね?ものすごい言い草じゃない?影山くん可哀想。
「影山くんはとてつもない人見知りで、クラスの人に話しかけられたら一瞬で姿を消してしまうくらいなの」
もしかして影山くんは忍びの里出身なのかな?
俺もその姿を見たことがない。
語尾が『ござる』だったりしないかな。
そんな古のオタク口調の男子高校生、なんか嫌だからやっぱりいいや。
「そんな恥ずかしがり屋な所が可愛くてキュンと来てしまったわ。さらに言えば、影山くんは私のことが気になっている様子なのよね。私が近くに行くだけで一瞬で姿を消してしまうのだから」
それ嫌われてる可能性もゼロじゃないよね?
まあ、仮にもこの人クラス1の美少女だからそれはないとは思うけど。
いやでも内面を知られてるならもしかしたら嫌っててもおかしくないかもしれない…。
まあ、それは指摘しないでおこう。この人ちょっと怖いし。
「え?じゃあ両思いじゃん。俺をニセ彼氏にしなくても影山くんと付き合えばいいじゃん」
「私は好きな人に好きになってもらって私に告白して欲しいの。私から告白しちゃダメなのよ」
う、うわあ…自分の中で強いこだわり持ってるタイプの人だ。別にそういう生き方しててもいいと思うけど、申し訳ないが自分の恋人には絶対したくない。まあ俺、現在進行形でこの人の"彼氏"なんですけど。
「でも影山くんって極度の人見知りなんでしょ?」
「そこで、あなたの出番というわけよ」
は?どこで俺が活躍するのかしら?
「何言っているんですか」
「あなたは仮にも私の"彼氏"。影山くんにしつこく絡んで、影山くんを嫉妬させるのよ!こんな男から彼女を奪ってやると情熱的にさせるほどに!」
ぴえーん、この人こわいよお…
どうしてぼくがこんなめにあわなくちゃいけないんだよぉ。
こわいよマユちゃん!こわいよー!
ハッ!?ストレスのあまり、幼児退行してしまっていた。
告白ラッシュがウザすぎるだけでなく、そんな目的のために利用されることになるとは、もう俺の平穏は終わりを迎えたに違いない。
「もちろん協力してくれるわよね?」
「もし、嫌だと言ったら?」
「私というものがありながら、あなたが高宮さん相手に二股をかけていたとクラス中に言いふらすかもしれないわね」
「めちゃくちゃ脅迫だ!?」
「さあ、どうするの?協力するのか?しないのか?どっちなんだい?」
俺のせいで、真由希の名誉が汚されるようなことはあってはならない。
幼馴染として、彼女の平穏な学生生活を死守せねばなるまい。
「…や、やります」
「良い子ね。では、明日から早速行動開始よ!」
彩葉が俺に言った"付き合う"にはそういう意味も込められていたんだな、と今になって絶望した。
別サイトに掲載していた続きをこちらに投稿し忘れていたので、今更ですが……




