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地球魔力改変  作者: しじみ
2章:ネイダー・アンカー
160/165

100.『自分の足で進むために』

 背は特別高くない。だけど、その大きな体は見えただけで安心できる。

 顔を上げれば、最も多くの時間を共有したギルドメンバーである宮村慶典がそこにいた。


 慌てて来たのか、この寒さで上着も着ていない。

 眉は下がり、いつもの優しい瞳が心配で塗りつぶされている。


「……のりさん」


 懐かしい呼び名に慶典は一瞬目を見開いて、それから優しく微笑んだ。

 何を言えば良いのか、なんと言うべきなのか。言葉を探す絢の隣で慶典は静かに腰を下ろす。


「あったかくしてて安心したよ」


 ただ継承者から言葉を貰えなかっただけでひどく孤独を感じていた絢は、自分を気遣ってくれる人の存在に少し心が落ち着いた。


 自分で何かをするのは怖い。だからこれまでずっと言われた通りにしてきたのに。

 絢は心細さから、自分の感情を和らげてくれた結衣の手を思い出す。


 手袋越しの熱は心を解かすようにじわりと沁みた。世の中には抱き止めてくれる人がいる。

 この人なら——この人ならきっと、どんなわたしでも受け入れてくれる。


 自分を鼓舞して、絢は自分の手を彼の大きな手に重ねた。


「のりさん……自由って怖いですね」


 慶典は絢の言葉に耳を傾け、心地よい間の後に言う。


「そうだね」


 たったの一言。それなのに、しっかりとした重みを感じる。


「わたし、これまで頑張ってきたんです」


 何を求めているかも分からずに、言葉は続く。


「うん、頑張ったね」


「自分でできることを増やそうって、やってみたこともあったんです。……でも、なにもうまく行かなくて」


 誰かに許してほしい訳じゃない。裁いてほしい訳でもない。

 ただ苦しみを一時的に軽くするだけの絢の独白を慶典は静かに聞き入る。


「でもそれで、最初に思ったのが——なんで止めてくれないんだって。そう、人のせいにしようとしたんです」


「……そうだったんだね」


 自分の醜い一面を身近な人に知って欲しかった。知ってなお、変わらずにいて欲しかった。


「なんで言ってくれないのって、なんで示してくれないのって。わたしが一番分かってるはずなのに!」


 削れる魂を。冷徹になろうとする姿を。抱え込んで崩れるその人を。ずっと見てきたはずなのに。


「なのにわたしは、自分が傷つきたくなくて、自分に言い訳して責任を少しでも軽くしようとしてきた。本当に、最低です」


「そんなこと……ないよ。誰だって痛みなんて知りたくないのに、絢ちゃんは頑張って」


 続く擁護に、どうしようもない苛立ちが溢れる。


「——違う! 私は戦わないといけない。一人でも傷つく人が減るように、死なない私が戦わないといけない! なのに!」


 

 隠してきた思いが、真っ黒な打算が零れ出す。


「わたしは傷つきたくなくて、そうなるだろうと踏んで洵に質問したんです。『私にどうなってほしい?』って。そうして、より前線で誰かを守るべき人の形を捨てた。わたしは守られるべき存在に、姿を変えたんです」


 そう、本当に戦い続けるなら男の姿だけでよかった。けれどわたしはそれを——仮初の姿に据えた。


「最初から逃げて、失敗しても許してって傷つけたのはわたしなのに傷ついたような姿を見せて、同情を買った! だから失望されたんですよ! 言葉を掛けられないのはこれまでもありました。でも視線すら向けてくれないんです!」


 道を閉ざしたわたしはきっと、もう何の期待もされない。だから視線は向けられず、面倒ごとを放り投げるように遠退けられる。

 最初は自由が嬉しいと思った。楽しいと思った。けどそうじゃない。そこに居させてもらえることを、手綱を握っていてくれる温情を理解できても、自分でなくとも出来ることしか割り当てられない。

 そんな自分の不甲斐なさは存在価値の否定につながり、今は胸に悲しみが満ちていた。


 痛みから逃げたのに、痛みが生きている証拠だとばかりに、今も人間性を上げて涙を流す。本当に——


「本当に、わたしは卑怯者です。自分の願望のために、自分の在りたい姿のために、周囲を巻き込み嘘をばら撒く!」


 命を、道具を、時間を。あらゆるものを消費して最後に裏切った。


「わたしは、どうしたら許されるんですか!? 価値のある死とは一体なんですか!? いつまで頑張れば、どこに終わりが、何を目指せばいいんですか!」


 こうなる未来もきっと知られている。最善を自ら消した癖に次善を求めるこの浅ましさに嫌気が差す。

 けれども終わりの見えない茨道に、目的の分からない旅に、絢は疲弊してしまった。


 ここで遅れてふと気が付く。

 本来はここまで言うつもりはなかったのに。口にしてしまった自分を見る相手の目が怖くなった。

 だから恐る恐る見上げる。

 そこには——継承者が時折見せるようなひどく冷酷な瞳が、ずっと遠くを見据えていた。


「僕たちは知りすぎている。だから何か特別な助言をすることはできない。だけど確実に一つ言えることはあるよ」


 それを聞くのが怖かった。けれど、聞かなければいけないと思った。


「それは……なんですか?」


「それはね、僕たちはどう足掻いても綺麗には生きていけないってこと。切り捨てて進む選択をした僕らに無意味は許されない。だからね——ご飯、食べに行こっか」


「……え?」


 ポカンとした顔の絢に慶典は立ち上がりながら続ける。


「栄養を取らないと明日元気に生きれない。人間はそういうものだからね。行こっか」


 手を引き上げられながら絢は慌てて問う。


「え、ど、どこへ?」


「うちが食材を卸してる町食堂、なんてどう?」


「う、嬉しいですけど! けど……」


 楽しそうな顔を浮かべる慶典に、絢は今更時間を貰うことを申し訳ないと思ってしまう。


「僕は他のみんなと違って基本暇人だから大丈夫。もちろん今もだよ? それに今日は食べに行きたい気分だったんだ」


 絢の卑屈な思考を分かりきっていたように、慶典は上手く返すとこの町の飲食店の話をしながら目的の店まで向かうのだった。



◇ ◇ ◇


 全体的に木造風な建物が立ち並ぶ中、その店は目立った特徴もなくこぢんまりとしていた。

 近づくにつれて香ばしい油の香りが強くなり、本来感じないはずの食欲が刺激されるのを感じる。


「こんばんはー。二人なんですけど空いてますか?」


 一見(いちげん)ではないからか気後れすることなく戸を開けた慶典についていくと、中はそれなりに繁盛した様子で人が楽しそうに食事をつついている。


「空いてるよ! 連れなんて珍しいね。その子どこから連れてきたんだい?」


 30代後半か、40代前半か。少しいかつめの店主のがなり気味な声に絢が隠れようとするも慶典に防がれる。


「この子はクランメンバーの妹なんです。実はこの子自体もクランメンバーなんですけどね」


「そりゃあいい。そんな場所で突っ立ってないでこっち来な、そこでもいいかい?」


 大きく頷いた店主は向かいからカウンターの隅の席を指す。


「ありがとうございます」


「あ、ありがとうございます」


 慶典の言葉を辿るように絢も感謝を口にし、譲られた席に座ると何かをカツカツ言わせながら歩く店主が水を出し場に置く。


「決まったら教えてくれな」


「はーい」


 慶典が手近にある品書きを開けば何種類もの品名が並んでいた。


「何がいい?」


「えーっと……」


 一品ものを見る感じ、ここは唐揚げの食事屋らしい。


「このからあげ定食でお願いします」


「他に食べたいのは?」


「唐揚げ用の取り皿をお願いします」


「そっかぁ……」


 慶典も少し悩んでから決める。


「大将」


「へい!」


「唐揚げ定食、カツカレー、唐揚げとゲソ揚げ追加でお願いします。あと唐揚げ用の取り皿も一枚追加で」


「あいよ!」


 注文を聞くとまた何かをカツカツ言わせながら奥に戻る店主改め大将。


「5? 7?」


「7!」


 奥にいるらしい女性に大将が符合か何かを答えるも絢には全く理解できない。

 そんな疑問は置いておき、絢はさっきから聞こえるカツカツ音、その正体を大将が客席へ酒を持って行く時に見てしまった。


「義足……」


 片足で済んでいるだけ運が良かったと言うべきか、膝下から木の棒に置き換わりその体を支えてる。

 バランスが悪そうな肩の動きで察して然るべきだったと即座に反省するも、心理的にぐちゃぐちゃになっていた絢の口から言葉は零れた後だった。


「お嬢ちゃんぐらいの子からすりゃあ驚くわな。気にせんでええ、命があるだけ恵まれてるってもんだ。それよりメシ食って美味いって笑顔を見せてくれや。もうちょっと待っててな」


「あっ、ありがとうございます!」


 沈黙を選んでしまいそうだった絢に気を利かせる大将。

 絢はどう在るのが正解か分かりかねて、慶典に質問することにした。


「この町で義足の方って珍しいですよね?」


「そうだね。学校がある町はそういう傾向があるから、大人が配慮しているのかもしれないね」


 努力した末の姿を敢えて視界から外す選択に寂しさを覚えつつ、そのせいで欠片の形が変わってしまうのは危うい。

 「なるほどー」と一人納得した風に見せると、料理を手に大将がやってくる。


「俺は運が良いことに協会職員だったからなぁ。ほい、お待ちどうさん! ゲソとチャーハンはもう少し待っててくれな」


「わ〜っ! 美味しそう、いただきます!」


 絢が頼んだ定食と、単品の唐揚げが6つ。

 慶典は嬉しそうに手を合わせると、皿に箸を伸ばした。


「おう! お嬢ちゃんも白米はおかわりし放題だからな。遠慮せずに食べろよ?」


「……わたしは悪いヤツなのでそんなことを言っちゃうとこのお店のお米を食べ切っちゃいますよ?」


「そいつはこまっちまうな〜」


「その時は特別に今日中の納品も承りますよ! もちろん通常価格で」


「ありがてぇ話だが蓄えは十分なんで悪いな」


「それは残念です」


 自嘲混じりではあるも、冗談らしき絢の言葉にふたりは軽口を交わす。

 通常価格があるなら特別価格はあるのか。どうして通常価格と言われて喜んだのかを考えつつ、絢も手を合わせるとお米を一口頬張った


「うん。おいしいです。慶典さんの味がします」


「僕の味っていうのがちょっとよく分からないけど、お米はウチのだからね」


「このお米は【植育】さんのですか。でも……【パイオニア】で出るお米は茶色っぽくてパラパラしている傾向にありますけど、学校のとここのは白くてモチモチしています。どちらも慶典さんの味なのにこの違いはなぜですか?」


「それは白米と玄米の違いだと思う。玄米の方が栄養価が高いからいつもはそっちにしてたけど……」


 慶典は記憶を辿るように首をひねる。


「そういえば絢ちゃんには聞いたことなかったかも? もしかして白米の方が好み? 今度たまにそっちする?」


「いえいえ、どちらも美味しいです。というか正直わたしには何が美味しいのかよく分からないので」


「え、そうだったの!?」


「はい。甘い・苦い・辛い・すっぱい・しょっぱいは分かるのですが、何が美味しいのかと言われると味覚を上げても分からないんです」


「そっかぁ……僕も論理立てて考えたことはなかったけど、確か甘いものが好きだったよね? たまに砂糖が小さじ数杯分消えてたりするから……」


 絢は思わぬところから自分の悪行が露呈していたことを知った。


「え、いや、そんなことは……しました。わたしです」


「責めてる訳じゃないから安心してよ。それより、そういう好きだなってものをとりあえず美味しいんだって思ってたら間違いはないと思うよ?」


「……そんなものですか?」


「意外とそんなものだと思うけど?」


 ふたりして首を傾げる。

 思ったよりも人は考えない生き物なのかもしれない。

 そう考えればわたしは面倒臭い人間だと、今になって結衣の言葉が自分に刺さる。


「はぁ……大将。お米のおかわりお願いします」


「はいよ! ちょっと待っててな!」


 待っててと言いつつすぐにやって来るお茶碗。その中にはさっきより少し多くお米が入っていた。

 慶典のチャーハンなど残りの注文もやって来て、絢はゲソと呼ばれる揚げ物の個数が7つであることを見つけて、ここでようやく前の符号に推測が立った。まぁどうでも良いのだが。


 好きなものが美味しいものなのか、美味しいから好きなものになるのか。卵が先か鶏が先かの問題と似ていると思ってそれ以上の思考は止める。

 きっと慶典が言うことは正しい。だからきっとこれが美味しいと言うことなのだろう。


「お米。美味しいです」


「ほんとにお米好きだよね。やっぱり甘いからいいの?」


「いえ、これは多く食べて来たことで魔力への変換効率が上がっているので好んでいるだけです」


 突然の効率視点な回答に慶典は目を白黒させる。


「そっか……唐揚げも食べるんだよ?」


「わたし、唐揚げの数を見誤っていました。最近は飽食なので唐揚げはひとつだけいただくことにします。あとは全部のりさんにあげます」


 絢は自分の唐揚げを取り皿に一個移して、残りを慶典の方に寄せた。


「お米を止めて唐揚げに行くのは?」


「昨夜と今日の朝ご飯とで分解を終えていない複雑なお食事がお腹に残ってるんです。これ以上は戦闘に悪影響が及ぶとわたしは思いました。お米は食べてもかなり早く分解できるので得意です」


「そ、そっかぁ……食材の作り手としては味も楽しんで欲しかったりするんだけどね。それよりさ、なんかいいの?飲ませてあげることできないけど話は聞くよ?」


 絢は唐揚げを一口分胃の中に送ってから言う。


「それはありますけど……いいんですか?」


「いいと思うよ? だめだと思ったら申し訳ないけど止めるけど」


 ならば緩く吐いていこう。

 絢は肉繊維を歯で解きながら思考を組んでいく。


「思い出したら小恥ずかしいことってありませんか?」


「思い返すとあの時どうしてって恥ずかしくなることあるよね」


「そうなんです。今では絶対に出来ないようなことを、わたしを味わった人と今は一緒にいるんです」


 結衣に初めて会ったあの日。絢は身体中から悪いものを取り除いてもらった。

 その出来事は必要なことだったしありがたいと今でも思っている。


「そうなんだ?」


「もちろんあの時はまだ二次進化前でしたし医療行為ということで根本から前提条件が違うことは分かっています。でもあそこまでされたんですもん……」



 魂生も当然次世代を育むことができる。

 やり方は簡単。双方の魂を一部混ぜ合わせ、その部分を切り離す。そうすることで子供ができる。

 魂の混ぜ合わせを行う時、当然魔力も混ぜ合わせることになる。絢がされたのは魔力の方だけではあったが、思い出すたびに悶々としてしまっていた。



「でもですよ、わたしの隅々までに触れたその人は別の人に想いを寄せられていたんです。しかも二人は凄く仲が良さそうなんです」


 渡されていた真尋の詠唱文をポケットから取り出す。

『打ち鳴らせ、昇華の調べ。増す衝動は友のため。遠く孤独な聖光とものため。共に背負いて進むため。今こそ害悪を飼い慣らし凶刃を授けん。』


 目を通した絢はため息を付きながら紙を慶典に渡した。


「振動とかいう属性を持つ魔法だそうです。ご存じですか?」


「うーん。珍しい属性だから良くは知らないぐらい? 相手にはしたくないね」


「そうですか……。世の中わたしが思っているよりもずっと早く動きすぎて、もう何をしてたらいいのか分からないですよ」


 絢が弱音を吐くと、慶典はしばらく考えてから「僕が思っているだけで部分的に間違ってもいると思うんだけどさ」と前置きをしてから語り出す。


「何をするかなんて、自分にしかできないことじゃなくていい。間違った方に進んでると思えば途中で行き先を変えればいい。どんなに曲がってても進んだ分は進捗だし、下がってもその学びで視野を広げればいい。

 先を見据えて、今を見つめて、過去を見返す。自分が思う理想の絵を描くために周りを動かしてやろうという気概があれば、きっとこれまでより上手くいく。

 ……やりすぎて“枝切り”って皮肉られたこともあるんだけどね」


 「それでも僕は間違ったとは思ってないけど」と続けた慶典を見て、絢の中にあった彼のイメージが変わる。

 相手を知り切るほどの間柄であるとは思ってないが、もっと調和を大切にする奥手な人だと思っていた。


「のりさんって実はかなり芯のある人ですね?」


「必要ならそうするだけだよ。絢ちゃんの受け身気質は悪くないけど、チャンスは自分から掴みにいくものだと僕は信じているから。まぁ、考え方の一つとして頭の片隅に置いといてよ」


 慶典は多くを話す人ではない。共感の言葉を選ぶ人だと絢は思っていた。そんな人がわざわざ教える言葉を選ぶのだ。

 二十歳も過ぎない青年が、突然一人前の大人としての姿を求められた。貴方でなければいけないのだと求められた。


「そうやって、のりさんは期待に応えてきたんですね」


「できてたらいいなって思ってるよ」


「……わたしも自分から積極的に動いて良いのでしょうか?」


「大きな前進に犠牲は付き物。その犠牲を君が払わずに済ませるために、君が望むのならパイオニアは全力を尽くすよ。

 なにせ、僕たちのかわいい妹分だから。……弟分でも変わらないけどね」


 それを慈愛と言うのだろうか?

 わたしは継承者に必要とされた人という色眼鏡で人を見ていた。それが間違っているとは思わない。

 けれど役割でなく、個人を見てくれている温かみがどこまでも心地よかった。


「わたしは欲張りですよ」


「僕と一緒だね」


「わがままですよ」


「君ほど忠実であろうとする人はあまり見ないけど……そんな一面も見てみたくはあるかな」


「迷惑かけますよ」


「本来子供は責任を自分で取れないから保護者がいるんだよ? 心置きなく頼ってくれたら嬉しいな」


 本当にこの人は、どこまでもわたしを甘やかす。知らない父の温もりを錯覚してしまう程に。


「このままでは与えられることに慣れてしまいます」


「その言葉が出てくる間は大丈夫だって僕は思うよ」


 違う。何も大丈夫じゃない。わたしはもう与えられることに慣れている。口先だけなんだ。

 だから自由が怖くなった。そして自分から動いても良いと言われてしまった。


 『切り捨てて進む選択をした僕らに無意味は許されない』


 これらかも生まれる多くを犠牲を、もっと多くの人の為に。わたしは何ができるだろうか?


「のりさんは先ほど、先を見据えると言いました。貴方はそうして何を為したのですか?」


 絢の問いに慶典はしばらくの沈黙の後に言葉にする。


「僕は知識と資源を有効活用するために人を集めた。人が飢えないように種を蒔いた。戦わなくても生きられるように雇用を作った。そして今はそれらが万が一にも壊れないように、選定しているよ」


「戦わずに済む未来……本来在るべき社会構築。無意識の安堵。安全の平常化」


 その連想で最初に出てきたのは探知だった。琴子の探知内にいる安心感は今でも覚えている。でもそれは戦力があって初めて有効になる。

 ならやはり、わたしが目指すのはより強い冒険者の戦線復帰への一助。洵にしていることを他の人にもできれば……。


「わたしはのりさんみたいな立派な結果は出せないと思います。ですが……わたしなりの挑戦はしてみようと思います」


 初めから、やらないといけないことは何も変わっていない。自分が強くなる。そんな不確実性よりも強い人の戦える時間を増やす。

 わたしはただ、それが無駄足になる可能性が怖かった。わたしはただ、もう一度取り返しのつかない失敗を迎えることが怖かった。


「のりさん。わたしは背中を押して欲しかった。きっと、前に進むための勇気がほしかったんです。それが分かりました」


 慶典は何も話さない。ただ、継承者と違って小さく頷いて絢を肯定する。


「だからわたしを抱きしめてください。今、そしてどのようなものであっても結果が出たその時に」


 席から降りて、絢は抱っこ待ちをする。それを慶典は優しく不器用に抱きしめた。


 心地良い人肌の温もり。人はきっといつの時代も、これを失わない為に戦うのだろう。そして失われた熱の為に、また戦いに行くのだろう。



 どれほど抱きしめていたか。どれほど抱きしめられていたか。

 恐怖は覚悟に変わり、その熱が消えないうちにと絢の足を進ませる。


 大切なのは自分のあり方。そう信じて、絢は握ってもらっていた従属の手綱を引き戻した。

 慶典が話すのは、彼自身が見つけたものだけ。どれほどの重圧が彼を大人にさせたのか。書けるのはずっと先になりそうです。


 投稿遅くなりました。申し訳ないです。文字を書くことから離れていたので書き方も忘れました。元から上手いわけではないので変わってないかもしれません。


 思いつきですが交換技能と宝珠技能に規則性を与えようと思います。その結果、既出である過去の諒の宝珠技能名・志道の魔法名・継承者の宝珠技能名がそれぞれ変更されます。視覚効果を優先することにしました。悪しからずご容赦ください。

・旧《魔力剣》→新《魔力操剣》

・旧《纏炎》→新《纏炎鍛身》

・旧《分岐未来視》→新《未来分視》

 二文字・四文字に統一予定です。


◇予告

 背中を押した言葉は、絢にどんな武器よりも力を与えた。そして絢は真正面から真尋と対峙する。

 次回——告白。次こそきっと、また来週!

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― 新着の感想 ―
慶典たちのように多くを知っていると衝動も葛藤も負債もすべて乗り越えれば価値になってしまいそうなこの世界だと他者への助言さえ自力でなしえたかの障害にならないように気をつけねばいけなくて大変そうですね。コ…
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