↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の彼方より ~少年は神域へと到る~  作者: ナーヴァ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/44

第二十四章 力の研鑽


 翌朝、零はいつもより少し早く目を覚ました。


 窓から差し込む朝日を眺めながら身体を起こすと、自然と口元が緩む。今日はガルドとの修行を再開する日だ。山の家で過ごした日々を思い出すだけで、胸の奥に期待が膨らんでいく。


 身支度を整えて居間へ向かうと、ルシエラが朝食の準備をしていた。


「あら、おはよう、零。今日は早いのね」


「おはよう、ルシエラ。なんだか楽しみで、早く起きちゃった」


「ふふっ。ガルドとの修行が待ち遠しいのね」


「うん。また教えてもらえるのが嬉しいんだ」


 零が微笑むと、ルシエラも嬉しそうに目を細めた。魔法で運ばれてきた朝食を二人で囲みながら、今日の予定について話す。


「ルシエラも一緒に来るんだよね?」


「ええ。あなたの様子も気になるし、ガルドの修行を見ておくのも面白そうだもの」


「そっか。嬉しいな」


「ただし、無理はしないこと。昨日のこともあるのだから、ガルドの指示はちゃんと聞くのよ?」


「うん。分かってるよ」


 素直に頷く零の頭を、ルシエラは優しく撫でた。


     ◇


 王都の外へ出て街道をしばらく進むと、緑の広がる開けた土地が見えてきた。人の往来から離れたその場所には、すでにガルドが待っていた。


「おう! 来たか、零!」


「ガルド師匠!」


 零が嬉しそうに駆け寄ると、ガルドは豪快に笑いながらその頭を撫でた。


「がっはっは! 朝から元気じゃねぇか。昨日の疲れは残ってねぇか?」


「うん。大丈夫だよ」


「よし! なら、早速始めるぞ!」


 少し遅れて歩いてきたルシエラが、二人に声をかける。


「おはよう、ガルド。今日はよろしくお願いするわね」


「おう! 任せとけ!」


「ふふっ。あまり張り切りすぎないでちょうだいね?」


「分かってるって! まずは身体を慣らすところからだ!」


 そう言うと、ガルドは零へ向き直った。


「さて、零。久しぶりの本格的な修行だが、まずは以前教えたことを一通りやってもらうぞ」


「うん!」


     ◇


 修行は、足運びや重心の移動といった基礎から始まった。


 零はガルドの指示に従い、構えを取りながら拳を突き出していく。山の家で何度も繰り返した動作だったが、久しぶりに師の目の前で行うと、自然と背筋が伸びた。


「踏み込むときに上体を流すな。足から腰、肩へと力を繋げろ」


「……こう?」


「おう! 今のはいいぞ!」


 零は頷き、同じ動作を繰り返した。以前は言われるままに身体を動かしていた部分も、今ではその意味を理解できる。踏み込みの角度や重心の置き方を僅かに変えるだけで、拳へ伝わる力が変わることも、実戦を経験した今ならよく分かった。


 しばらく様子を見ていたガルドは、満足そうに頷いた。


「悪くねぇな。教えたことはちゃんと身についてるみてぇだ」


「本当?」


「ああ。だが、まだ動きに無駄がある。そこはこれから直していくぞ」


「うん。よろしくお願いします、ガルド師匠」


「がっはっは! いい返事だ!」


 ガルドは笑うと、次の指示を出した。


「よし。今度は氣を使ってみろ」


 零は呼吸を整え、身体の内側を巡る力へ意識を向けた。馴染みのある温かな感覚が全身へ広がり、それに伴って黒い瞳が黄金色へと変化していく。


 その様子を確認したガルドは、零の前に立った。


「まずは普段どおりの力で構わねぇ。俺に向かって打ち込んでこい」


「……いいの?」


「がっはっは! 誰に言ってやがる。遠慮はいらねぇぞ!」


 零は嬉しそうに頷くと、構えを取った。


 地面を蹴り、ガルドとの距離を一気に詰める。腰の回転に合わせて放った拳を、ガルドは片手で受け流した。


「ほう、速くなったじゃねぇか!」


「まだまだ!」


 零はすぐに体勢を立て直し、続けて拳を繰り出す。ガルドはその一撃を軽く捌きながら、空いた手で零の肩を押した。


「おっと!」


 零は後ろへ跳び、姿勢を整える。


「攻撃に気を取られすぎるな。打ち込んだあとの動きまで考えろ!」


「うん!」


 再び踏み込んだ零は、今度は拳を放った直後の姿勢を意識した。ガルドの反撃を受けてもすぐに動けるよう、足の位置を僅かに変える。


 その変化に気づいたガルドが、にやりと笑った。


「そうだ! 少しは考えるようになったじゃねぇか!」


 二人の攻防はしばらく続いた。零が繰り出す拳は以前よりも鋭さを増していたが、ガルドは余裕を崩さず、一つひとつの動きを見極めていた。


 やがてガルドが手を上げる。


「よし、そこまでだ」


 零は動きを止め、軽く息を整えた。


「どうだった、ガルド師匠?」


「悪くねぇ。だが、力任せになりかける癖はまだ残ってるな。相手の動きをもっとよく見ろ」


「……うん。気をつける」


「それと、次は少し違うことをやってみるぞ」


 ガルドはそう言うと、近くにあった小石を一つ拾い上げた。


「零。今からこの石を投げる。氣を使って、拳で砕いてみろ」


「……石を?」


「ああ。ただし、必要以上の力を込めるなよ。狙ったところに、狙った分だけ力を乗せるんだ」


 零は頷き、少し離れた場所で構えを取った。


 ガルドが小石を軽く放る。


 零はその動きを目で追い、拳を突き出した。


 乾いた音とともに、小石が砕け散る。


「……できた」


「おう。だが、今のは少し力を使いすぎだな」


 ガルドは足元に散らばった石の欠片を見ながら言った。


「今度は、もっと少ない力でやってみろ」


「うん」


 再び小石が放られる。零は先ほどよりも氣を抑え、拳へ集中させた。


 小石は砕けたものの、今度は拳に伝わる感触が僅かに違った。


「……あれ?」


「どうした?」


「思ったより、強くなっちゃった」


 零は自分の拳を見つめた。氣の流れは意識したとおりだったはずなのに、実際に拳へ乗った力は予想よりも大きかった。


 ガルドはその様子を見て、腕を組んだ。


「ふむ……昨日の話と関係がありそうだな」


「……やっぱり?」


「ああ。だが、今の段階じゃ何とも言えねぇ。もう少し確かめてみるか」


 ガルドは続けて小石を投げ、零はそのたびに力加減を変えながら拳を振るった。


 これまで扱い慣れた範囲では、氣の制御に問題はなかった。しかし、以前の限界を超えるほど力を高めると、拳に込める力加減に僅かなずれが生じてしまう。


 何度か試したところで、ガルドは手を止めた。


「なるほどな。大体分かったぜ」


「……何が?」


「今のお前は、以前よりも大きな力を引き出せる。だが、その力を細かく扱う感覚は、まだ十分に身についてねぇみてぇだ」


 ガルドは零の拳を指差した。


「力を出すこと自体はできても、思ったとおりに加減できなきゃ意味がねぇ。これからは、そっちも鍛えていく必要があるな」


「……うん」


 零は納得したように頷いた。


 少し離れた場所で見守っていたルシエラも、二人のもとへ歩み寄る。


「ふふっ。なかなか興味深い結果ね」


「ルシエラもそう思う?」


「ええ。ただ、昨日も話したように、今のあなたがどれほどの氣を引き出せるのかは分からないわ。だから、無理に上限を確かめようとはしないでちょうだいね」


「うん。分かってるよ」


 ルシエラは安心したように微笑んだ。


     ◇


 その後も、修行は続いた。


 ガルドが出した課題は、氣の出力を一定に保ったまま身体を動かすことだった。


 零は構えを取り、腕へ巡らせた氣を意識しながらゆっくりと拳を突き出す。動きに合わせて力が変化しないよう注意を払うが、強い出力を維持した状態では、どうしても僅かな揺らぎが生じた。


「焦るな。まずは自分の力の動きをよく感じ取れ」


「……うん」


 ガルドの声に頷き、零は呼吸を整える。


 身体を動かすたびに生じる氣の変化を感じ取りながら、少しずつ動作を重ねていく。何度か繰り返すうちに、最初よりも安定してきたことが分かった。


「……今のはどう?」


「おう。さっきよりいいぞ。その感覚を忘れるな」


 零は嬉しそうに微笑み、再び拳を構えた。


 それからもガルドの指導は続き、零は一つひとつの動作を丁寧に確かめていった。


 やがて太陽が高く昇った頃、ガルドが声をかけた。


「よし! 今日はここまでだ!」


 零は氣を収め、黄金色の瞳を元の黒色へ戻した。


「……ふぅ」


 額に浮かんだ汗を拭いながら、零は満足そうに息を吐いた。


「どうだ、零。久しぶりの修行は?」


「楽しかったよ。でも、思ってたより難しかった」


「がっはっは! そうだろうな。だが、初日としては上出来だ!」


 ガルドは満足そうに笑うと、零の頭をわしゃわしゃと撫でた。


「これからも今日みてぇな修行を続けるぞ。まずは今の力に慣れることだ」


「うん。頑張る!」


 そこへ、ルシエラが歩み寄ってきた。


「お疲れさま、零。今日はよく頑張ったわね」


「ありがとう、ルシエラ」


「ふふっ。帰ったらゆっくり休みましょうね」


「うん」


 ルシエラが零の頬にそっと手を添えると、ガルドは呆れたように笑った。


「まったく、相変わらず甘やかしてやがるな」


「あら。頑張った子を労わるのは当然でしょう?」


「がっはっは! 違ぇねぇ!」


 ガルドの豪快な笑い声が、草原に響き渡った。


 零は二人のやり取りを見ながら、小さく微笑んだ。


 かつて山の家で過ごした修行の日々が、再び始まった。


 ただし、今度は以前と同じではない。


 黒龍との戦いを経て変化した力を、これからどのように扱っていくのか。


 その答えを見つけるための、新たな一歩だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。