黒鳥
その黒い子どもは末の一つ前に産まれた子どもで酷く偏屈で、意地悪で、頑固な者だった。
デナラカよりも先にできたのに、自分が産まれたときの賞賛や、褒められる想像にふけって中々出てこなかった。
ディンはディムの次の子どもで、ディムが産まれたあと冠を頂き、褒められアディムとなった。
その全てを腹の中で聞いていた。
ディンはアディムと良く似ていて、似ていなかったのはその姿くらいだ。
二人とも産まれるときは丸い殻に包まれて、暫く出ては来なかった。
何故なら自分が産まれたときに盛大に祝ってもらう準備をさせる為だ。
初めてそんな事を言われた周囲の者たちは面食らって呆れもしたが、準備が終わるまで出る気はないようなので、渋々了承した。
そして言われるがままに暖かい部屋も与えてやったし、水も随分と与えてやった。
そんなものだから、中のアディムがふやけてドロドロになってしまう前に、外の者はさっさと準備をしてやった。
それも全部知っていたディンは兄よりも、もっともっと大きく祝って貰おうと分厚い殻を拵えてドンと床に転がったのだった。
周囲の者たちは渋々準備してやったが、中々出てこない。
言われるがまま転がしてやったり温めてやったり拭いてやったりしている間に末のデナラカが生まれたというわけだ。
彼女の誕生に周囲は大きく湧き立った。
それで焦ってディンは産まれたが、殻が硬く時間がかかったので結局、お披露目の間ずっと卵の中に籠ったキリであった。
ディンは最後に冠が欲しいとギャアギャア騒いだが、呆れた父は一つ抜けたディンに相応しく、ディアンと要望通りに名付けてやった。
これには彼も顔を真っ赤にして大きく羽ばたいたが、次はそのせいで辺りをしっちゃかめっちゃかにしてしまい、せっかくの集いが散々なものに変わった。これによりディアンは酷く怒られて、彼は彼の父親から嫌われてしまったのだった。
しかしディアンはアディムよりも活発で、好奇心があり茶目っ気に溢れているように見えた為、色んなものと付き合いがあった。
賢い子は鷲の元に通うようになり、父の代わりに彼に可愛がられるようになったのだった。
それでもディアンは父の愛を欲しがったが、その想いは届かず。鷲に気に入られるほどに父から嫌われていった。
そしてまた他の兄弟の鷹たちも、特別に気に入られるディアンを嫌った。
一人だけ黒く、違う見た目のディアンはここでは受け入れ難い存在だったのだ。鷲の背の生き物もディアンを怖がって近寄らない。
だからディアンは次第に鷹の元から離れて、妹のデナラカのところに通い詰めた。
悪知恵の働くデナラカはディアンに鷲から聞いた話を父に聞かせるようと告げるとディアンはその通りにした。
父の耳には届かない小さな声。
それを拾えるのは地上の子どもたちだけで、また、その声を彼方の父に届けられるのは翼のあるディアンだけだったのだ。
退屈していた父はデナラカの思惑通り、大層喜んだ。
あまりに笑うのでその不気味な声が地上を震わせるほどだった。
古い隙間にその声が通ると恐ろしい音を奏で、背筋をなぞるように張っていた。
それはそれは恐ろしい日であった。
そしてそのような日は度々続くようになった。
なぜなら父を喜ばせたいディアンが色んな話を彼のために話すようになったからだ。
父が喜ぶのでそうして何日も通いつめた。
そのうち、鷲は笑い声の正体に気がつき、原因を知ったときにはとうとう悲しみで大きく鳴いた。
そのときの声をまだ小さい鷹が覚えて、ケーンと鳴く鳶が産まれることとなる。
さておき、ディアンの兄弟の鷹は彼を快く思わなかったが、鷲は赦し、その代わりに自らの元を去るように告げた。
ディアンは悲しく、自分のしたことを悔やみもしたが愛する父に認められた嬉しさで一杯だった。
ディアンの黒い身体は闇に溶け込み、地上のどんなことでも聴いて回れた。
耳の悪いアディムよりも優れて、ビグよりも早く父の元に行けた為、父からは大層褒められた。
デナラカはこの裏切り者の間者が、また鷲の元へ戻ることは知っていた。
一度手を返した者が二度返さないという確約はどこにあるのだろうか。
けれどもそれを利用してどうにかあの鷲を殺せないものかとデナラカは考えていたのだった。
彼女は鷲が父の命を狙っていると思っていた。
しかし下手に動けばきっとシェラに邪魔をされる。
デナラカはシェラを嫌っていた。それは全て彼女が特別で、デナラカの反対であったからだ。
父はアルスを可愛がるから、デナラカはじっと堪えた。
父がアルスを守れよと命じたときも喜んで答えた。
ディアンはそんな彼女の思惑も聞いていた。聞いていた上で鷲の元に伝えに行った。当然彼の行いは非難されたが、鷹たちにとって好都合であった。
だからその日からこの黒い鳥は裏切りの象徴になった。




