エイシュの樹録
世界はただそこにあった。
横たわる大地、黒く閉ざされた空。
大穴だけが、広いこの地を隔てている。
熱と氷が入り混じり、大穴の中で巨人が目を覚ました。
それはアルスと名乗り地上を歩き始めた。
遠い昔に鷹がまだ空を自由に飛べた頃。
銀の羽が大穴の中に落ちた。
するとそれは一人の美しい男となって、穴の外に這い出た。
彼はアルスの子どもたちに比べて、なんとも非力であった。
大地を揺るがす力も、炎を我が物とする術も、何も持たぬ。
黒い天から滴る影のものたちに怯え、アルスの子どもらから隠れ潜むように暮らしていた。
彼らの持つ灰の瞳は持たざる者の証として、ずっと虐げられてきた。
そう、輝く銀の主人、エイシュが生まれるまでは。
エイシュは最初に生まれた男の何番目の子どもだっただろうか。
輝く銀の髪に瞳を持って産まれた彼は、誰よりも聡明で、誰よりも強かった。
密やかな夜。
エイシュはその銀光の下にアルスを組み敷いて殺した。
その死体の頭蓋を宙に放り投げると、悪しき天から地上が見えないように、空を塞いでしまった。
そして、アルスの死体を大穴に放り込むと、そこから一本の木が生まれた。
エイシュはその木と共に一つになると永い眠りについたが、エイシュの子らは生きていた。
子らは死体に沸いた蛆に手足と名前を与え、小人と名づけると巨人たちの骨で彼らに武器を作らせた。
中でもエイシュの長子、ウォリケの活躍は目覚ましい。
彼は木に自らを捧げ、大穴の持つ力。
この世の秘密を読み解く、隠された文字を見つけた。
魔術が生み出された事によって巨人たちは劣勢を強いられる。
そして大樹の梢からは神の下僕である、人間が生み出される。
人間は力を持たなかったが、その数で地上を埋めていった。
やがて巨人の末裔たちは世界の端にのみ住むことを許され、ようやく世界に安寧が訪れた。




