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イリフェル
その娘に名前はなかった。
覚えている限り誰も知らなかった。
娘の役目は泉を守ることであった。
その力で何人もの盗賊を追い払い、いつまでも泉を守り続けた。
魔女と呼ばれ娘は恐れられても、彼女は動じなかった。
そんな中、あるとき一人の青年が泉に訪れて娘のことを『美しい精霊の瞳』と呼んだ。
娘の髪は魔法の泉と同じく淡い輝きを持って、その瞳に幾つもの星を携えていたからだ。
けれどそう呼ぶのは彼のみで、他の誰も娘へ親しみを持って接することはなかった。
やがてその男が死んだとき、彼女は悲しみのあまり青ざめていくと小さな花となって散ってしまった。
それからだ、その散った場所に青い花が咲くようになったのは。
青い花たちは死に別れた二人を慰めるように今でも咲いている。
花は娘とは似つかないものであったが、可憐であったので今では男が贈った名を取って『イリフェル』と呼ばれているのだ。




